相談を受ける側の苦悩
 しかし、相談を受けて被害者を支援する私たちの側も、この新型コロナウィルスがひろがる状況下では色々と悩んでいる。

①支援者たち自身も守られなければならない。
 わたしたち自身、感染拡大防止対策を無視してはならない。スタッフ間の感染も防ぎ、健康を守る必要がある。同時に、もし、相談窓口が休館・閉鎖などになった場合、多くが非正規雇用で働いている自治体などの相談員の収入や生活も、どうやって守れるのか。こっちも心配である。

②相談者につながりにくくなってきている。
 3月は、多くの自治体の男女共同参画センターなどは、感染拡大防止のため、イベントを取りやめたり、休館にしたりして、相談窓口も、電話相談中心になり、面談は一切停止とか、緊急性の低い新規の面談予約は入れないなどの方針を取っているところも少なくなかったと思う。しかし、どうも「3月は抑えめだったけど、4月からは再開」とはならないようで、むしろこれからもっと厳しい体制になるかもしれない。これが数ヶ月は続くだろうし、いやもっと続くかもしれない。
 そうすると、被害者相談支援はどうすればよいのだろうか。もともと、DV電話相談では、お正月や土日に家族と一緒に過ごしている間につらいことが溜まって、月曜日の昼間、家族は家にいなくなった時に相談電話をかける、というパターンがよくあると言われたりしていた。けれど家族がずっといては、相談電話をかけることができないではないか。「面談を中止にした相談者さんから、電話がかかってこない、きっと電話できないのかも」と心配している相談員もいる。

③もともと「切れている支援」で、ますます支援オプションが減る
 電話での相談というのは、相談支援のきっかけの入り口でしかない。本格的な支援を実際に行うとすれば、相談員はご本人と実際に面談し、より詳しい情報をつかんだ上で、状況のアセスメントをして(「ケースの見立て」)、取るべき行動の提案をしたり、専門家や専門機関につないだり、一緒に行ったりしながら、ずっと継続的に支援するというのがふつうだ。今すぐ家から出るようなケースばかりではないし、家を出る場合も、じっくり相談にのって、色んなことを一緒に考えて、準備してから実行する方がよい。人生を大きく変える決断をしていくのだから、相談員との信頼関係を作るためにも、面談は大切だ。しかし、今後、そういうじっくり腰を据えた相談支援がしにくくなり、悪化してから急に飛び込んでくるようなケースも増えるのではないかと心配する声もある。
 また、よく「切れ目のない支援」ということが掲げられているけれど、私たちは「現状はむしろ切れ目だらけだ」と批判している。男女共同参画センターや市町村の窓口などでは、DV相談、家庭や児童相談、女性の悩み相談など、丁寧に電話相談や面接相談をやっているところもそれなりに多い(開設日数などには、かなりばらつきがあるけれども)。また、民間団体でも、相談を受けている。ところが、そこで受けたDVのケースについて、本格的な支援(例えば緊急に家を出て、公的シェルターに入るとか)をしようとすると、都道府県の婦人相談所が判断をする。いわゆる「一時保護」=シェルターに保護することをしてくれるかどうかは、婦人相談所の判断を待たなければならない。しかし、婦人相談所によっては、身体的暴力がないようなケースだと「緊急性がない」などと言って、保護してくれなかったりする。「所持金があるから」という理由で断ってくる都道府県もある。
 また、裁判所のDV法に基づいて出される保護命令(加害者に接近禁止や退去、電話・メール禁止などの命令をするもの)も、「配偶者から暴行罪又は傷害罪に当たるような暴行を受けたことがあるか 又は生命・身体に対して害を加える旨の脅迫を受けたことがあり,今後,配偶者からの身体に対する暴力によりその生命身体に危害を受けるおそれが大きいとき」にしか出されない。モラハラや性的DVでは、使えないのだ。
つまりもともと既存のDV/性暴力対策の法制度や公的な相談支援の枠組みには収まりきらない様々な被害者が存在している。(例:身体的暴力以外のDVや虐待的行為(精神的・性的DVなど。)・DV被害はあるが家を出て逃げることはしない場合・交際相手とのDV・18歳以上の人が受ける親きょうだいなど家族からの虐待・所持金が多い人・学齢期以上の子や親などの家族や男児と一緒に避難することを望む人・ペットを連れている人・疾病や障がいのある人・高齢者・同性カップル、トランスジェンダーや男性の被害・配偶者や交際相手以外からのストーカー被害)。それに公的機関で支援を受けることに不信感や不安から躊躇する人々も存在する。(例:若年層、外国人、LGBTや障害者など、様々な面でのマイノリティ)そして、こういう相談支援というのは、単一の選択肢を公的機関から押し付けられるのではなく、本来、複数の支援方針や支援者(機関)の中から被害を受けている本人が選べる形であるべきだ。
 また、公的なシェルターでの一時保護にはぴったり合わない人の場合で、民間シェルターを利用したいと思う人もいる。政策上は、県は、民間シェルターに一時保護を委託してその費用を都道府県が負担するとなっているのだが、現実には民間シェルターへの一時保護委託は減っていて、あまりなされていないし、一時保護をする場合も、「支援をするのは県の婦人相談所で、民間は従いなさい」というような都道府県もある。となると、自費で利用費を払って民間シェルターを利用するか、払えないような人に対しては、民間は無償で支援するしかない。要するに、最初の相談窓口で親身になって相談にのっても、その後、提案できること、つなぐ先(部屋や、支援機関、専門家など)が本当に不足している。これは一部は法制度のせいであり、一部は行政の担当者の認識や力量の問題であり、そしてこの社会全体の支援する力量が不足しているせいでもある。

リンク 2019年4月に厚生労働省に出した「ドメスティック・バイオンス(DV)対策の改善についての要望書」 全国女性シェルターネット 

柔軟な対応をして、何とか支援を継続していきたい
 話を戻すと、別に、現在、婦人相談所の相談窓口が閉じてしまっているとか、公的シェルターが受け入れをやめているというわけではない。しかし、そこにつながる、男女共同参画センターなどの相談事業は、面談を抑制するなど、繋がりにくくなっている。そして、通常時でさえオプションが少ない、その先の公的シェルターの方が、今後、「感染防止対策のために、入れるのを抑えますね」とか「感染者が出たから閉じます」となってしまったらとんでもないことだし、もし「公的シェルターの方で一時保護する人数はさほど増えてませんよ」という態度でぼんやりしておられるようなら、それは違うよな、と思う。コロナ対策がもっと緊迫してくる状況になればなるほど、現在のような「切れ目のある」、硬直的な対応は変えるべきだ。例えば、「感染者が出たので施設を閉じます」となったら、なんとしてでも代替の場所は確保するという方針でいてほしい。身体的暴力が無くても、本人が希望したら一時保護してほしいし、もっと柔軟に、民間への一時保護をすすめてほしい。

相談につながりやすくするためには?
 他の国のもっと外出が難しくなっている支援者の動きを見ていると、やはり面談は難しい中、電話やオンライン相談、ウェブでの発信などを使って、支援を継続しようとしているようだ。もともと、この頃は若い世代は相談の電話をかけなくなってきていて、若年や子どもの相談へのメール相談やSNSなどの活用が課題となっていた。ただ、それはあくまで相談の入り口のきっかけとしてのSNSであり、面談につなぐのが原則だと言われてきた。では、こういう「面談が難しい」状況下でSNSやメール相談は有効なのだろうか。相談履歴が残るというリスクもあるかもしれないし、SNSで相談を受けた後、どういうふうに実際に支援の動きを作ることができるのかを考える必要がある。私たちの団体では、今、海外からの情報も参考にしながら、早急にこうしたことを検討しているところだ。

北仲千里(NPO法人 全国女性シェルターネット、広島大学)