世帯単位という落とし穴
コロナウィルス対策の影響で多くの人が経済的に損害を受け、生活が厳しくなることが考えられる。そこで、経済対策も打ち出されてきている。でこれがまた、心配なのだ。まず、DV加害者から離れた被害者は、相手に自分が今どこで何をしているのか(住所や職場、子どもの学校など)を知られたくない。過干渉すぎる毒親から逃れた子どもも同じように、知られることを恐れる。なぜ怖いかというと、DV加害者は、ストーカーになるからで、また、再び会うとまた支配されてしまうことも怖いからである。
DV加害者は家族(パートナーや子ども)を「自分のもの」だと思っているため、相手が自分から去っていくというのを受け入れられない。「別れましょう」と言われると、そんなことは何もなかったことにしたいので、「戻ってきていいよ」というし、それでも別れるというと、「ばかにされた」「裏切られた」と受け取って、どこまでも探し出し、追いかけて連れ戻そうとする。そして「DVがあった」「別れる」と言われると「冤罪DVだ、子どもに会わせろ」と、自己正当化に懸命になる。そしてついには「別れ話のもつれ」殺人事件が起きてしまうのだ。
だから、DV被害者は、家を出て他のところに住むとしても、住民票は移さないのが無難だという考え方になる。住民票を移さないまま、新しい生活を始められるような支援の裏ワザが、それなりに国の通達などで準備されている。または、どうしても住民票を移す必要がある場合になどには、住民票等の閲覧請求を加害者やその代理人などにはできなくする「支援措置」も作られている(この支援措置は毎年申請しなければならず、使い勝手はよくないので、もっと改善してほしいと私たちは考えているのだが)。
というところに、今回「一世帯」にマスク二枚だの、給付金だのが配られる話が出てきた。この「世帯単位」だと、そこにはもう住んでいないけれど住民票は移していないDV被害者や子どもは、受け取れないおそれがある。自治体などの担当者がそれを把握することはなかなか困難である。そこで、今回の私たちの要望書では、「個人単位が良い」と書き、でも日本のお役所って、そんなにすぐやり方を変えてくれないと思ったので、「もしどうしても世帯単位で配るというのなら、せめてDV被害者だとわかる書類などをもって申し出た人には、給付してほしい」と要望してみた。つまり、夫が30万受け取っても、家を出ている妻と子にも、30万円渡してくださいねということ。給付金はこの文章を書いている時点では、まだ正式決定していないし、この要望についての政府からの回答は、まだない。本当をいうと、そんな、何らかの証明をできる人は少ないと思うので、もしこの要望がきき入れられたとしても、受け取れない人はやっぱり出ると思う。気持ちは暗い。

世界では
 さて、海外の仲間たちとは、最近せっせと情報交換している。4月25日には、Global Network of Women’s Sheltersは、この件に関して第1回のウェビナー(ウェブでのセミナー)を行い、世 界中で700人がアクセスしたという。4月1日の第2回では日本の私たちの要望書のことも報告した。

政府が行っている対策の情報としては、次のようなものがある。
フランスは、政府が以下のような声明を出している。
・ロックダウンの状況下でも家庭内暴力事件の裁判所での処理はやめずに続ける。家事事件裁判官は、被害者が迅速かつ効果的に保護されるよう、今後も保護命令を出していく。
・警察の家庭内暴力対応も全面的に維持する。
・外出禁止期間中も、内務省が設置した性暴力および性差別の通報プラットフォームが24時間年中無休で活動し、相談できる。
・各県は、暴力被害女性のための地域団体や緊急シェルターの状況を通常通り把握している。
この他にも、保護を求めて薬局にかけこむことができるという対策を取っているなどとも報道されている。

イタリアではDV相談センターやシェルターへの影響を考慮し、DV被害者に避難所を提供することが困難な状況にある場合には、暴力防止センターやシェルターが自治体に連絡して、適切な解決策を探すことができる。ホテルや空いている住宅などを確保し、その費用を政府が負担すると発表している。

 台湾は、日本や欧米ほどまだ深刻な状況ではないが、政府はシェルターに無料で体温計、マスク、アルコール消毒液を配布しているという。警察に通報するオンラインプラットフォームもあるようだ。

オーストラリア政府は、1億5000万豪ドル(日本円で100億円)をDV被害者・加害者向けの電話支援サービスに充てる方針を発表したと報道されている。(3月30日AFP通信「ウイルスでDV被害増 豪首相、対策資金100億円投入を発表」)

支援者たちは
 GNWSのウェビナーで報告したイタリアの民間シェルターのMarcellaの話によると、ロックダウンで許可された人以外は外出が許されていないという。そして、彼女たちが取った行動は、まず、「私たちシェルターの支援者はここにいるぞ。私たちが外出してフルタイムで仕事をすることを政府は許可せよ」と政府に要求したこと、そして、「被害者が家の外に出て逃げることも許可せよ」と要求したこと、それから自治体や警察に「もっと避難する場所を作れ、増やせ」それから、「加害者の方を家から退去させよ」と要求しているのだという。
 アメリカの支援者は、「感染予防のため、一つの建物のシェルターにたくさんの人を入れないよう、代わりの部屋(ホテルの部屋や住宅など)を確保して利用するようにしている」と話した。
そして、アメリカもカナダも、オーストラリアもやはり面談できないため電話やオンライン相談に頼っているようだ。台湾では、ソーシャルワーカーやカウンセラーは電話の他、ビデオ相談を行っているという。
 マレーシアの支援者が言っていた、マレーシアで起きていることは、メンタルヘルス悪化。障害者が周辺に追いやられている。子どもが荒れだした。託児所の閉鎖と、収入源で子ども預けられなくなっている問題。DVが起きていて、DV専用シェルターが不足している。また、日本の要望書で「給付金がDV被害者に届かないかも」としたことについて、「私たちも同じことを心配している」ということだった。
  ヨーロッパのシェルターネットワーク(Women Against Violence of Europe, WAVE)のウェブサイトでは、現在コロナ対策参考資料集を載せている。オンライン相談などの研修カリキュラムも作成されているようなので、これが参考になるのかどうか、私たちは急いで和訳して読んでみようとしているところだ。

11月に台湾で私たち世界の女性に対する暴力の被害者支援関係者は、第四回世界女性シェルター会議に1200人が集まり、たくさんの情報を交換し、連帯を確かめた。その数か月後に、まさかこんな事態になるとは、本当に思いもしなかった。けれど、こうして培った国境を越えたつながりによって、情報が入ってきて「他の国も対策してるんだ。他の国の支援者も懸命に頑張っているんだ、日本も!」という気持ちになれる。それは本当にありがたいことだ。

北仲千里(NPO法人 全国女性シェルターネット、広島大学)