書名  『[新編]日本女性文学全集』全12巻
監修  岩淵宏子・長谷川啓
出版社 六花出版
刊行  2007年8月~2020年3月
定価  各巻5000円+税



 本全集は、近代出発期から現代までの女性文学を集成した日本で初めての女性文学全集である。
 従来、女性文学の評価は男性文学に比して極めて低く、例えば筑摩書房刊『現代日本文学全集 増補決定版 全143巻』(1973~1975年刊行)に収録された女性作家は、わずか14人しかいない。それも単独で入っているのは6人で、樋口一葉でさえ合本だった。
 しかし、近年はフェミニズム批評・ジェンダー批評成熟の中で、女性文学の読み直しと再評価が進み、その位置づけは大きく変容してきている。
 そうした時代状況を背景に刊行した本全集は、埋もれてきた女性文学者と作品の掘り起こしに留意して92名の作家の200点(うち抄録は6点)の作品を収録し、女性文学の豊饒な全体像と深化を可能な限り周密かつ包括的に浮かび上がらせることをめざした。
 女性たちが何を考え、表現しようとしたかを通して、男性文学とは異なる女性文学独自のテーマや視点を浮き彫りにし、女性文学が切り拓いてきた文化と地平を明らかにすることを意図して編纂した。
 各巻には、主としてフェミニズムの視点からの総解説ならびに各作家の年譜、作品の解説・解題を付しており、研究刷新にも寄与したと自負している。 12巻のラインアップについて、紙幅の都合上大まかに一端を紹介したい。

第1巻は、明治20年代前半の三宅花圃や清水紫琴たち黎明期の作家。
第2巻は、明治20年代後半から30年代にかけて台頭した樋口一葉や田沢稲舟など。
第3巻は、主として明治40年代の大塚楠緒子永代美知代など。
第4巻は、明治44年9月刊行の『青鞜』を中心にした平塚らいてうや田村俊子たち。
第5巻は、大正初年から昭和初年にかけて登場した宮本百合子や野溝七生子など。
第6巻は、昭和初頭から太平洋戦争を背景に頭角を現した林芙美子や佐多稲子など。
第7巻は、戦中から敗戦後にかけて活躍した岡本かの子や宇野千代など。
第8巻は、戦後注目された円地文子や幸田文など。
第9巻は、石牟礼道子や林京子など主として社会派的作家たち。
第10巻は、本格的な戦後女性文学の出発を印象づけた大庭みな子や富岡多恵子など。
第11巻は、さまざまな近代幻想を解体した森瑤子や津島佑子など。
第12巻は、現在活躍中の新鋭山田詠美や小川洋子たちである。

 以上のように本全集は、女性表現の通史として、日本における近現代女性文学がいかに豊かで多様な広がりをもってきたかを俯瞰する試みであり、いずれの巻も、女性が書くことを通して時代の深部に迫る主体となりうることを闡明している。こうした女性文学の真価を、是非とも多くの皆様に味わっていただきたいと切に念じている。 (岩淵宏子)