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内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
新型コロナウィルス対策担当大臣 西村 康稔 殿
総務大臣 高市 早苗 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
内閣府特命担当大臣(男女共同参画) 橋本 聖子 殿
政府の新型コロナウィルス対策に対する女性たちからの要請
新型コロナウイルスの感染拡大に対する政府の対策は、根本的にジェンダー平等や女性の現実への配慮に欠けたものとなっていることを、私たちは深く憂慮します。パンデミックが既存の性差別や経済格差をさらに広げるものであるだけではなく、政府が打ち出す感染対策や経済対策がそれらをさらに悪化させかねないものであることを指摘し、速やかな対策の修正を求めます。
まず、4月17日、総理大臣が「一律に1人当たり10万円」と発表した給付金は、「特別定額給付金」として制度化されましたが、そこでは「受給権」者が「(住民基本台帳に記録されている者の属する世帯の)世帯主」とされています。世帯主はその相当数が男性だと考えられます。この仕組みは、妻や子どもは世帯主である夫を通じて給付金を受け取ることとされ、個人が個人として給付金を受け取る権利があることを保障していません。多くの女性たちがその点に強い不安と不満を感じています。そのような思いは「#世帯主ではなく個人に給付して」というハッシュタグによって表明されました。
非同居のDVや虐待被害者については、女性NPO等からの要請を受け受給できる仕組みが打ち出されたものの、申請期限に関してわかりにくい記述が行われ、支援の現場に不要な混乱が生じています。また、同居を続けている被害者に関しては、果たして給付金が届くのか判らない仕組みとなってしまっています。
そもそも、「特別定額給付金」の発表前に公表され、後に取り下げとなった減収世帯への給付も、世帯主の減収のみを対象とするものでした。これも、共稼ぎ世帯における非世帯主(多くは女性)の減収の影響、ひいては家計や社会の経済活動における女性の貢献を、正当に評価したうえで打ち出された対応策とは到底思えないものでした。
また、2月末には、突然の一斉休校要請によって、女性たちから、子どもの世話で働けなくなるという悲鳴のような声が上がりました。総務省の「労働力調査」によると、15~64歳女性の就業率は71.1%(2020年3月)に達し、共働き家庭は片働き家庭を上回り続けています。育児や介護などのケアを抱える労働者への配慮は不可欠であるのに、政府にはそうした認識が欠落しています。
政府は批判を受けて、休校に伴う休業補償を打ち出し、続いて休業要請での損失補償も打ち出しましたが、働く女性の54%は非正規であり(2020年3月)、フリーランサーの女性も少なくありません。正社員のみが対象であると雇用主が誤解したり、周知が不徹底であったりしたために休業手当を支給されない女性も多く、また、もともとの賃金水準が低いため、補償額も低くなり、ひとり親をはじめとする女性の貧困が加速される恐れも出ています。
女性の就業率が高い産業のトップ3は「医療・福祉」「宿泊業・飲食サービス業観光」「生活関連サービス業・娯楽業」です。これらの仕事は対人接触をその本質としており(つまり「濃厚接触」の度合いが高く)、そこで働く人たちは、感染の危険とともに、休業要請に直撃されています。であるのに、こうした女性たちへの補償や安全対策が講じられるどころか、休校休業についての補償から「風俗関係」などが一時除外される事態も起きました。批判を浴びて見直されたものの、職業差別発言が煽られ、当該職場の女性たちは、休業による経済的負担と差別の二重の不安にさらされています。
「家にいよう」の掛け声の下で、家庭内の労働負担やDV・児童や少女への虐待は、今後さらに拡大することが懸念されます。女性にとって家が安全な場所であるとは限らないからです。ストレスの増加は暴力のリスクを高め、外出制限のために長時間にわたって被害者は暴力加害者と同じ空間で過ごすことになります。その一方で、外出や電話によって支援団体に繋がることが困難な状況に置かれています。女性団体やシェルターなど、困難を抱える女性や少女を支援する団体への助成が一層必要になっています。
迅速で効果的な対策には、人口の半分を占める女性の視点が不可欠です。実情とかけ離れた対策では、今のように、打ち出されるたびに批判が集まり、修正を迫られて実施が遅れる事態を繰り返しかねません。政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」には、確認可能なものとしては「令和2年4月7日改正」版以降、「三 新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項/(6)その他重要な留意事項/人権への配慮等」として、「③ 政府及び関係機関は、各種対策を実施する場合においては、国民の自由と権利の制限は必要最小限のものとするとともに、女性や障害者などに与える影響を十分配慮して実施するものとする」と盛り込まれているのに、実際の施策にはその視点が欠けたままです。さらに有効で必要な人に確実に届く対策のため、下記のような点を徹底していただけるよう、切に要望します。
①すべての対策を、ジェンダー平等の視点から再検証すること。
②支援の単位を世帯から個人に切り替えること。
●特別定額給付金については、世帯主が「受給権者」であるとの規定を削除すること。一人一人の住民が受給権者であると明記し、ただし同一世帯者またはその代理人に、受給を委任できると規定すること。
●上記が直ちに実現できないとしても、特別定額給付金の申請書においては、世帯構成員ごとに口座を記入できるよう改めること。
③行政による支援や補償にあたっては、すべての人を取り残さないよう実施し、とりわけ接客・風俗関係や非正規労働者などへの職業差別及び待遇差別を行政自らが行なわないことはもとより、民間におけるこれらの人々への差別を撤廃すること。
④一般的に労働者はケア(育児・介護等)を抱えた存在であるとの前提に立ち、実態としては無償ケア労働が女性に押し付けられがちであることが女性差別を助長することを認識しつつ、ケアを担わない労働者を標準とする雇用対策を転換し、家事やケアにあたる家庭内労働者などの感染防止を含めた感染対策を策定すること。
⑤家庭がすべての人にとって安全とは限らないことを認識し、DV・虐待被害者や少女、妊産婦含め「家庭外の安全な場所」を整備・拡充し、相談事業や支援団体を助成すること。
⑥医療やケア労働など感染リスクの高い業務に従事する正規・非正規労働者に対して、リスクに見合う処遇を確保するとともに、宿泊場所、交通手段の提供など支援を強化し、差別を防ぐための周知・啓発を強化すること。
⑦意思決定機関への女性の参加度を格段に高めること。同時に女性団体・NPOなどからの提案・要請の受け入れ窓口を明示し、その窓口部署に対して他部署への総合調整権限を付与すること。また救済の申し立てには責任をもって応答すること。
呼びかけ人(五十音順、4月30日現在)
浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授)、大沢真理(東京大学名誉教授)、大脇雅子(弁護士)、戒能民江(お茶の水女子大学名誉教授)、亀永能布子(女性差別撤廃条約実現アクション事務局長)、竹信三恵子(ジャーナリスト、和光大学名誉教授)、角田由紀子(弁護士)、中野麻美(弁護士)、中村ひろ子(アイ女性会議事務局長)、林陽子(弁護士)、三浦まり(上智大学教授)、皆川満寿美(中央学院大学准教授)、村尾祐美子(東洋大学准教授)、屋嘉比ふみ子(ペイ・エクイティ・コンサルティング・オフィス(PECO)代表)、湯澤直美(立教大学教授)、柚木康子(女性差別撤廃条約実現アクション共同代表)
慰安婦
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