写真は,アメリカ合衆国連邦最高裁判所判事ルース・ベイダー・ギンズバーグが弁護士として法律上の性差別撤廃に挑んだ映画「On the Basis of Sex」 (邦題:『ビリーブ 未来への大逆転』)価格:\3,800(税抜)発売・販売元:ギャガ 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.


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「純子は女の子だからお手伝いしてね。」「純子は女の子だから勉強はそこそこでいいよ。」幼いころ,「女の子だからね。」と何度も言われてきました。社会人になっても「女性社員は朝お茶出しね。」と。
 この幼少期から今もなお続く,「女性だから」という理由で求められる生活上の様々な役割は,これからも続けていくべき日本の伝統・文化でしょうか。医学部入試における女性差別は,まさに日本の伝統的性別役割分の弊害を,女子受験生に押し付けてきたのだと私は思います。

 なぜ,女性医師は家庭生活と仕事の両立に困難をきたしているのでしょうか。
 家庭生活を平等に分担できるパートナーを選択しなかった女性医師の選択の結果ですか。
 医師として男性と同等に働きたいのであれば,女性は,結婚や子育てを諦めればよいのでしょうか。
 単なる女性医師個人の,人生の節目における選択の結果でしょうか。
 私は,そうは思いません。

 パートナーを選ぶ際,「この人は家庭生活を平等に分担してくれる人かな」と考える男性がどれほどいますか。
「仕事で様々な経験を積みたいから,結婚や子育ては諦めようかな」と考える男性がどれほどいますか。
 日本では,伝統的に女性が家庭生活の担い手であったために,多くの男性は,自分自身が家庭生活と仕事を両立する必要に迫られてきませんでした。そして,今でもその現状はさほど大きく変わりません。総務省(2017)の「平成28年社会生活 基本調査」では,6歳未満の子のいる共働き夫婦において,妻の週平均家事関連時間が6時間5分に対し,夫は1時間22分です。

 家事や子育ては女性の仕事。男性は外で働き女性は家庭を守る。これらは,日本の伝統・文化であったかもしれません。でも,もうこのような伝統・文化とはお別れしたい。伝統的な性別役割分業に囚われているからこそ,家庭生活と仕事を両立するという困難を女性が負担してきただけでなく,男性も,正当な対価を得られない長時間労働を強いられてきたのです。

 大学が女性より男性医師が好ましいと考えたのはなぜでしょうか。それは,伝統的な性別役割分業が続く今の日本では,男性医師は,結婚しても,子どもが生まれても,家庭を担う存在が別にいるため(多くの場合は妻),長時間労働に耐えられるはずだと思われているからです。これは,性別とは別の視点からみると,経営者が労働者を搾取している構図そのものです。男性医師でも女性医師でも,仕事と家庭生活を両立できる健全な労働環境を整備するには,多額の費用を要するでしょう。現状の医療体制の維持・改善方法を「男性医師を増やす」ことに求めた大学は,多額の費用を支出する代わりに,伝統的な性別役割分業に支えられた長時間労働を是認しているのです。

 男性と同じ得点を獲得しても女性であるから不合格。多大な労力と時間を費やして懸命に勉強し,その血のにじむような努力が公平・公正に審査されると信じていた入試において,努力とは全く無関係の,自分にはどうすることもできない「性別」という理由で,将来を奪われる。現状の医療体制がどのようであろうとも,伝統的な性別役割分業を安易に是認し,その不利益を女子受験生に背負わせる入試を実施してよい理由にはなりません。
 連載13で佐藤倫子弁護士が報告したとおり,東京医科大学の性別による得点調整は,違法である可能性が極めて高いと2020年3月6日に東京地裁で指摘されました。本弁護団による訴訟の今後の大きな争点は,性別による得点調整をしていた大学を受験させられた慰謝料が,一次試験・二次試験の合否に関わらず,原告である全受験生に認められるかという点です。

 私は,女性という理由のみで,どのような役割も要求されたくありません。その時と場合に応じて,必要と信じる役割,必要とされる役割を自ら果たしたいと思います。
 私が女性の体の器に入っていようとも,男性の体の器に入っていようとも,「私」であること自体を認めてもらいたい。私が本弁護団に参加した理由は,この一言に尽きます。

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