夏の風物詩、健康的なライフスタイルを表現する効果的な記号として用いられてきたサーフィン。東京2020オリンピックの正式競技になり、現実的なスポーツ種目としても注目を集めている。
しかし、サーファーおよびサーフィンという文化の現場で、実際にどのような活動が行われているのかを調査・記録したものは少ない。冒頭で書いたとおり、サーフィンは記号として消費されることが多く、そのカルチャーの内実を知ることはなかなか難しかった。
本書は、(どちらかというと上手ではない)いちサーファーの記録を通じて、サーフィンの世界に内在する差別・抑圧の構造を描くことで、サーフィンがもつ可能性を模索していく試みである。
それは日本に生まれ育ち、女性であり、社会学の研究者である著者が、どのようにサーファーになり、さまざまな人とのかかわりの中で、サーファーとしてのライフスタイルやアイデンティティを獲得していったのかという個人的な体験記であるとともに、身体文化に内在する差別や抑圧の構造を明らかにするエスノグラフィーの成果でもある。
サーフィンは「白人、男性、中産階級、アスリート」が中心をなす世界であり、それ以外の多くの「ただサーフィンを楽しみたい」人たちや「女性サーファー」は周辺においやられ、研究上でも取りこぼされ続けてきた。しかし、グローバルなサーフィン世界を可能にするのは、サーフィンを愛する一般サーファーの存在が不可欠であり、サーフィンを論じるために彼・彼女らを対象から除外することはできないはずである。
本書は、これまでの研究で軽視されてきたサーファーたちに焦点をあて、内に閉じ込められ続けた差別・抑圧の構図を明らかにすることで、身体文化としてのサーフィンのさらなる発展を切に願いまとめられたものである。多くの人に愛されるスポーツであるために避けることができない問題に切り込んだ、意欲的な著作である。
目 次
第Ⅰ部 サーフィンのエスノグラフィーのために
第1章 サーフィン、スポーツ、ジェンダー
第2章 経験を記録する
第Ⅱ部 〈女性〉が経験するサーフィン
第3章 サーフィンを始める
第4章 男同士の絆
第5章 差異化戦略とその限界
第Ⅲ部 オルタナティブなゴールに向けて
第6章 ショップをこえて
第7章 サーフィンの再開
終 章 理想の空間をめざして
2020.05.21 Thu
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