
(c)Dongchun Films production
やっとコロナ自粛が少し緩和されて、京都シネマへ映画を見に行く。うれしい。
「在りし日の歌」(2019年 中国 英題: SO LONG, MY SON 原題:地久天長)を見る。1980年代から2010年代、中国の激動の30年を生きる市井の家族を描く壮大な叙事詩。
1980年代、国有企業で働くリウ・ヤオジュン/ワン・リーエンとシェン・インミン/リー・ハイイエンの2組の夫婦には、それぞれ同じ日に生まれたリウ・シンとシェン・ハオという一人息子がいた。改革開放後の中国を生きる彼らは、時代の荒波に揉まれ、「一人っ子政策」という国の政策に否応もなく翻弄されていく。
そして1994年、ヤオジュンとリーエンは最愛の一人息子シンシンを水難事故で失う。悲しみから逃れ、友人夫婦とも別れて二人は福建省の小さな町へ移り住み、「シン」と名付けた養子と共に暮らしていた。だが、16歳になる息子のシンは、二人に反抗し、家を出てゆく。
やがて2011年、不動産業で成功したインミンと死期が近づいた妻ハイイエンを見舞うため、二人は故郷へ戻る。インミンとハイイエンの息子ハオは亡くなったシンシンと幼なじみ。今は医者になっている。母親の葬儀のあと、ハオは、シンシンがため池で溺れた時のいきさつを正直に告白し、ヤオジュンとリーエンに心から詫びる。それを静かに聞いて、二人はやがて優しくハオを許す。
ラストは、家を出て消息不明だった養子の息子からの、帰宅を告げる電話に、満面の笑みがこぼれる二人のシルエットで結ぶ。
バックに流れるスコットランド民謡「オールド・ラング・サイン」(蛍の光)。原題「地久天長」はその中国語訳。「友情は天地の如く長久(とわ)に変わらず、古き友よ、良き時代をいかに忘れられようか」。友情と信頼と、共に許し合う優しさが、メロディとともに通奏底音のように流れてゆく。
行きつ戻りつする時代の「時間」の流れを追う映画。3時間の上映時間も長いと思わない。ソーシャル・ディスタンスをとった隣席の年配女性は始めから終わりまで、ずーっと泣いていた。
中国第6世代のワン・シャオシュアイ監督は、1979年から2015年まで続いた一人っ子政策が廃止となり、一つの時代の終わりを感じて「その時代」を記録しようと思い立ったという。中国の「70后」世代の理想主義者からすれば、「一人っ子世代」として育つ「80后」「90后」は超新人類、現実主義者に見えるとか。養子のリウ・シンを演じるワン・ユエンも2000年生まれ、人気アイドルグループで活躍中だ。
蘇州大学前「十梓街」
今年は1989年6月4日の天安門事件から31年。1990年、大学生だった娘は北京への留学が叶わず、蘇州大学へ留学した。蘇州駅から大学まで、えんじゅの樹の並木道をパッカパッカと馬車でゆく。蘇州の夜はやわらかいランタンの灯が消えると、あたりは真っ暗。何の囲いもない公衆便所。運河沿いに女たちが石段をトントンと降りてきて、おしゃべりをしながら川で食器を洗い、洗濯をし、便器の掃除もする。宿舎には同級生のミャオ族の女子学生のアーチーや中国系カナダ人でLGBTのカーシーがいた。
2008年1月、娘と上海を再訪。上海甫東空港から中心街まで時速431キロの超スピードのリニアモーターカーに乗る。上海から蘇州へ、いつ出発するともしれない列車の硬座に座って行ったのは、もう20年近く前。今は高速道路でアッという間に到着。途中、工業団地群やスモッグの空は途切れることがない。相変わらず、上海の雑踏は、昼も夜も大勢の人々で賑わっていた。
上海の雑踏
上海の夜は更けて
1991年1月17日、湾岸戦争勃発の日、香港へ飛んだ。1997年、「中華人民香港」となる前の香港は、湧き出るような人々の群れと賑わう市場、活気あふれる人々が、たくましく生きる街だった。道を聞けばクィーンズイングリッシュの答えが返ってくる。1984年、英国と中国は香港返還に合意し、「一国二制度」を明記した英中共同宣言を発表。それは今も守られているはずだ。
だが、2020年5月の全人代では、香港の民主化運動を抑えようと、「国家安全法」導入に関する決定が採択された。あくまでも「一国二制度は揺るがない」と、しつつも。

天安門
1943年、私が生まれた北京の秋は「突き抜けるような青い空だった」と母は言う。「北京秋天」、キーンと冷たい空気が肌を刺す。
今、96歳になる母から聞いた話。「中国人の夫婦喧嘩は面白いよ。日溜まりの胡同(フートン)の中庭へ夫と妻がいきなり家から飛び出してきて、腕を後ろに組み、手を出さず、それぞれの言い分を主張しあう。それを近所の人たちがワイワイはやし立てながら聞いて、どっちが正しいかを判断するのよ。妻は夫に決して負けない。自分が納得しない限り、引き下がりはしない」と。
1972年9月29日、「日中国交正常化」が実現した。その「共同声明」調印の前夜、毛沢東は、周恩来首相と田中角栄首相を前にして、「もう喧嘩は済みましたか。喧嘩をしないと仲良くなれませんよ」と二人に語り、笑って隣室に消えたという。
悠久の国、中国。陸と海のシルクロード「一帯一路」を、なおも進める広くて大きな国。今年5月の第13期全国人民代表大会(全人代)で、王毅国務委員兼外交部長は「中国外交政策と対外関係」について国内外の記者の質問に答えた。
「感染症との戦いから得られた教え」「中米関係」「ポストコロナの世界とグローバル化の未来」「香港地区情勢」「中日韓協力」などなど、自信にあふれる演説。
中日韓三国の民衆は、コロナパンデミックに際して共に助け合い、「山川異城、風月同天(別の場所に暮らしていても、自然の風物はつながっている)」「道不遠人、人無異国(道義は人を遠ざけない、人には国の違いなどない)」と、時代の新たな一章を綴ったと、「人民網日本語版」(2020年5月25日付)に記されていた。ほんと、どこかの国の首相の演説とは雲泥の差だ。
「中国、オンライン学習4億人」(毎日新聞6月3日付)の見出しにビックリ。中国では1月末の春節連休前後から国内の感染拡大が深刻化し、中国教育省はただちに全国の学校に臨時休校を指示すると同時に、「休校しても、学習は止めるな」と家庭でのオンライン学習を継続できる環境をアッという間に整えた。中国インターネット情報センターによると、2019年6月時点で2億3246万人だった利用者は、2020年3月には4億2296万人と、ほぼ倍増したという。すごいなあ、中国は。
中国語で「開心」とは「うれしい」の意。互いに心を大きく開いて、意見が違えば、喧嘩をして仲良くなって、そして「うれしい」と思えるような、国と国との関係がつくれたら、ほんとにいいなあと、心から願う。
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