今回は、この訴訟の意義について思ったこと、訴訟の進捗、弁護団の活動について報告させていただきます。

医学部不正入試訴訟も手続が再開される。(写真は2019年6月20日撮影。東京地方裁判所にて。)

1 この訴訟の意義
 日本に限らず、歴史的に、女性は政治、社会生活の中で様々な差別に遭ってきました。現在は、性別による差別を禁止している憲法が存在しているにもかかわらず、政治への参加、労働事件等、様々な場面で、女性差別が問題になり、しばしばそれをなくすための活動や訴訟が行われています。今回の医学部不正入試事件もその一つです。
  残念ながら、今後も、女性は差別的なふるいの目にかけられる事態が生じ得ます(もちろん差別は女性に対するものだけではありません。人種、障がいのある方、性的マイノリティーの方、色々な差別があります)。
  特に、今回のケースは、自分が努力して合格水準に達すれば、合格できると考えられていた入試という領域において、女性受験生が、ただ女性であることを理由として、自分の実力で取った点数を-自分の知らないところで-削られるような合否判断が行われていたのです。これは差別そのものであって、差別か否かが問題となる余地がありませんし、その差別を正当化する余地はありません。
 今回の訴訟の当事者の方々は、それぞれ動機があり、自分の職業として医師になりたい、とただ純粋に努力をしていただけです。訴訟上の立場は原告ですが、好き好んで闘おうとしたのではなく、自身の人生を生きることを、性別を理由として奪われ、その結果、争いに巻き込まれた、という方が実情に合っていると思われます。
 新型コロナウイルス感染拡大の影響で止まっていた訴訟が再開されます。私たち代理人は、当事者の方々が受けた被害を追体験する気持ちで訴訟活動をしていきたいと考えています。
今回の訴訟もいつかは判決がでます。これまで差別を受けてきた人、今差別を受けていると感じている人、今差別という言葉にピンとこない人、これから社会人になる人、子どもたち、そして、これから生まれてくる人が、その判決を読んだとき、どう感じるでしょうか。裁判所にはこうした訴訟の意義を認識してもらい、当事者の方々、弁護団が提示する問題に正面から答えてほしいと考えています。

2 訴訟の進捗状況
  新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言以降、裁判所によって期日が取り消され、進行が停止していた事件が徐々に再開しています。
  東京医科大学に対する訴訟については、2020年8月14日(金)午前10時30分から進行協議(非公開)、午前11時15分から口頭弁論手続(公開。610号法廷)が、順天堂大学に対する訴訟については、同年9月10日(木)午後3時から弁論準備手続(非公開)が、それぞれ東京地方裁判所で再開されることになりました。
後者については、期日をTEAMSというWEB会議で行うことも検討されましたが(この点は連載16をご参照くださいhttps://wan.or.jp/article/show/9003)、結局、従来どおり裁判所での実施となりました。
訴訟の再開自体は歓迎すべきことですが、裁判所の密を避ける、極力窓のある部屋での実施にする等の感染防止策が必要で、裁判所が従来の頻度で期日を開くことができず、進捗が遅れることが懸念されます。
 元々、裁判の迅速化を目指して「裁判手続等のIT化」が検討されていました。手続が停止、遅延した今回の新型コロナウイルス感染拡大という状況からも、今後、訴訟手続のIT化の議論が進められていくことになると思われます。
  また、2020年7月6日から、文科省の官僚が東京医科大学に便宜を図った見返りに息子を同大に不正に合格させてもらったとされる贈収賄事件で、同省元科学技術・学術政策局長、同大前理事長、前学長らの公判期日が東京地方裁所で開始されました。この事件は今回の不正入試が発覚したきっかけとなった事件です。弁護団としても、裁判所がどのような事実認定をするか、注目しています。

>3 弁護団の活動状況
  現在、弁護団では、東京医科大学の次回期日に提出する書面の内容を検討しています。
2020年3月6日、2017年度、2018年度に同大学を不合格となった女性受験生、浪人受験生に受験料等の返還義務を認める判決が出されました(この判決の詳細は連載13をご覧くださいhttps://wan.or.jp/article/show/8815)。
この判決内容を引用し、発展させて、今回の不正入試の違法性、慰謝料の発生根拠等について、当方の主張をさらに補強していく議論をしています。
2020年6月16日には、聖マリアンナ医科大学に対し、当弁護団から受任通知を送りました。他大学の医学部についてもお問い合わせをいただいています。引き続き、医学部不正入試の被害救済に向けて活動を続けていきますのでご支援よろしくお願いいたします。

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