*また若い方からお便りが届きました。「お助けWAN」の相談コーナーに来たのですが、上野がお答えした方がよいと判断しましたので、こちらに掲載します*

WAN相談
紅子(徳島・18歳)

こんにちは。私は上野千鶴子さんが東京大学の入学式で述べられた祝辞を拝聴し、大きく心を動かされました。もともと、ジェンダーやフェミニズムに興味があったので、社会に出れば理不尽な差別は当たり前のようにあるということは分かっていたのですが、上野さんがあの場で声を大にしておっしゃっていたのを見て、社会に対する怒りとも悲しみともとれる感情が湧いてきました。

私の周りには父を含め、女性を軽視するような人が沢山います。父から目立った虐待をされたわけではないのですが、彼の発言には女性を軽蔑するような内容がよく入っています。また、クラスの男子が女子の行為の様子を盗撮するということがありました。これは、女子を軽視しているから起こったことなのではないかと考えています。しかも、この時の学校側の対応が男子に注意を喚起するのではなく、女子におおごとにしないようにと口止めをしただけでした。
私は今受験生なのですが、このようなことが大学に入ればざらにあると思うとゾッとします。そして、大学に行くのが不安でなりません。伝えたいことが多すぎて、相談というよりかは愚痴のようになってしまいすみません。

追記 WANの活動は本当に素晴らしいと思います。これからも、どうか社会が公正になるように頑張ってください。

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紅子さん、わたしのスピーチのせいで、18歳のあなたに暗い思いをさせてごめんね。
大学に行くのが不安なら、社会に出るのはもっと不安でしょうね。でもいつまでも学生ではいられませんし、いつかは社会に出なければなりません。 だいじょうぶです、学校も家庭も社会の縮図です。あなたはすでに家庭で「女性を軽視する」お父さんとつきあっているんですし、学校で「女性を軽視する」男子や先生とつきあっています。社会にはそういうお父さんのようなひとが、たくさ〜んいる、と思えばいいんです。お父さんや先生の扱い方を知っていれば、どこでも同じ、恐くありません。

クラスの男子が女子を盗撮したんですか。しかも学校は女子に「おおごとにしないように」と口止めしたんですか。それなら大学の方がずっとましです。日本全国の大学でセクシュアルハラスメント相談窓口のない大学はありませんし(わたしたちが努力して作らせました)、そこへ盗撮案件を持っていけば、握りつぶされることはありません。盗撮を防ぐのは大学側の責任です。どうしてかって、大学生はもうオトナだから、不当な扱いを受けたら黙っていないからです。それにセクハラへの対応が大学や企業の責任になったという法律を知っているからです。

「おおごとにしないように(被害者である)女子の口止めをした」というのは、学校側が女性を軽視している」からだけでなくて、「子どもだと思ってあなどっている」からですね。 でもあなたがいつまでも受験生ではないように、あなたもいつかはオトナになります。まわりに「女性を軽視する」お父さんや先生や男子がいっぱいいても、同じくらい黙っていないオトナの女の人たちがたくさんいます(WANにはそういう女の人たちが集まっています)。それにそういう男性たちとどうやって闘えばいいかという情報やノウハウがいっぱい積み重なっています(WANはそういう知恵の宝庫です)。
たとえば「口止め」した先生に、こう言ってごらんなさい。
「センセイ、この件、教育委員会に持っていっていいかなあ。センセイに口止めされたって・・・」 先生、びびりますよ(笑)。

「女性を軽視する」お父さんに、あなたのお母さんは耐えていますか?お父さんと一緒になってあなたを抑えにかかりますか?受験生なら、あなたの親はあなたが大学へ進学することを応援してくれているのでしょう?それにお父さんの言動を「女性を軽視する」とあなたが受け止めているのは、「これがあたりまえ」とは、あなたがちっとも思っていない証拠ですね。<お母さんがあなたを理解してくれそうなら、共同戦線を張って、お母さんの応援団になってください。

半世紀以上前、わたしがまだ学生だった頃。セクハラや盗撮に遭うのは女にスキがあったから、女が誘惑したせい、と思われていました。だから女性は「口止め」されなくても、不愉快な経験は黙って胸にしまいこみました(これを「泣き寝入り」と呼びます)。それを「わたしは悪くない」「不愉快な思いを耐える必要はない」「女性が安心して学業や就労を継続できるようにセクハラに対応するのは学校(や企業)の責任だ」というところにまで世間を変え、法律までつくらせてきたのは、先輩の女の人たちです。

大学へ行ったら、そして社会へ出たら、そういう元気で魅力的なオトナの女性にいっぱい会えますよ。楽しみにしていてください。WANはそういう女たちの集まりです。「頑張ってください」と言う代わりに、紅子さんもなかまになってくださいね。