1980年代末、各家庭が新聞を購読するのが当たり前だった時代に、朝日新聞朝日歌壇欄に毎週一首以上の投稿歌が掲載され、全国にファンを獲得した伝説的な歌人がいました。それが大田美和です。

詩集預けまどろむ君の横顔にページは繰らず幾駅を過ぐ

風花って知っていますか さよならも言わず別れた陸橋の上

フェミニズム論じ面接室を出て教授は男ばかりと気づく

知らぬまに殺されたくはないという素朴に根ざすわれに政治は

 相聞歌と社会詠を得意とし、愛唱性のある歌が特徴でした。この歌人は短歌結社にしばらく所属することなく、NHKの短歌大会や長野県塩尻市の全国短歌大会などでいわゆる「賞」荒らしをしていましたが、1989年に未来短歌会に入会し、近藤芳美に師事、次第に頭角を現しました。
 そして俵万智の歌集『サラダ記念日』の爆発的ヒットと、折からの女性作家ブームに乗って、1991年、河出書房新社の新鋭女性歌人シリーズで第一歌集『きらい』を出版しました(初版5000部、重版2000部)。

 それから二十年以上たった昨年出版の本書は、既刊歌集四冊と、現代詩とエッセイを収録した、作家活動としての「中仕切り」(森鷗外の言葉)です。
 現代詩は、英国ブリッドポート文学賞で佳作を受賞(日本人初)した英詩と『朝鮮学校無償化除外反対アンソロジー』収録作品も入っています。エッセイのトピックは、両姓併記パスポート獲得記や、戦死した祖父と平和への思いなどさまざまです。巻末の「自筆年譜」は、本と絵と音楽が好きで、考えることが大好きだった1963年生まれの女の子が、いかに「ありのまま」の自分として生き延びたかという精神史となっています。
 第一歌集の明るい生と性の歌が今も衝撃度と新鮮さを失っていないかどうか、その後の作品において、社会と時代に対する批判精神が鈍っていないかどうか、ぜひ読んでお確かめ下さい。

 一般書店で八木書店扱い、日販経由で注文できますし、または、北冬舎に電話やファックスで注文できます。北冬舎tel&fax. 03-3292-0350です。各ネット書店からも購入できます。(著者 大田美和)

◆書誌データ
書名 :大田美和の本
著者 :大田美和
出版社:北冬舎
刊行日:2014/6/10
定価 :2400円(税込)