岩波現代文庫『企業中心社会を超えて――現代日本を〈ジェンダー〉で読む』の底本は1993年に刊行されました。文庫収録にあたって当然ながら、誤字脱字は訂正しましたが、本文の内容は変更していません。27年をへだてたにもかかわらず、本書が指摘する「家族だのみ・大企業本位・男性本位」という日本社会の特色は、そのままぴったりと現在にも当てはまります。安倍内閣の7年8カ月を経て、むしろ当てはまる度合いは高まっていると言えるでしょう。

 そのことは、文庫あとがきに代えて著者が書き下ろしてくださった「なにを明らかにし、どう歩んだか」に明らかです。「日本の歳入構造は低所得者を冷遇する度合を強めてきたのであり、日本政府の課税努力の低さは、怠慢という以上に、意図的な課税不正義(tax injustice)といわざるをえない。安倍内閣の税制改正がこの不正義を強めていることを見逃してはならない」のです。そして「そうした不正義は、新型ウイルス感染症のような災厄にたいする社会の脆弱性をも、あらかじめ深めていた」という事実に私たちは直面させられています。

 この文庫版には、付論として「社会政策の比較ジェンダー分析とアジア」を収録しています。ここに綴られたアカデミック・セクシズムのありさま――「「女子労働論」は、会社主義の論者からほとんど無視されていた」「現代日本社会を分析するうえで、「女性の不在」は当然だという主張があった」等々――には、編集担当者も言葉を失いました。そうしたセクシズムと闘って実績を積み上げてこられた著者の言葉は、どこをとっても重みがあります。

 終わらないコロナ禍のなか、首相が交代しました。新内閣の労働政策、社会保障政策を見定めるうえで、本書は最強のツールになると思います。ご一読いただけましたら幸いです。

著者名:大沢真理 (1953年生まれ。東京大学名誉教授。経済学博士。専攻は社会政策) 書名:『企業中心社会を超えて――現代日本を〈ジェンダー〉で読む』(岩波現代文庫) 出版社:岩波書店 (2020/8/19) 定価: