「一つの都市は瞬(またた)く間に動きを止めた。復活の日はくるだろうか」

2020年1月23日、1100万の大都市・武漢が突如封鎖された。そこではいったい、何が起きていたのか──!?

怖いほどの静寂に包まれた大都市・武漢。猛威を振るう新型コロナウイルスへの恐怖と不安の中、耐え忍んで暮らす市民たち。封鎖都市のリアルな実態がネット上に日々克明に記録され、閲覧数191万に上る話題の〈武漢封城日記〉、台湾・聯経出版より2020年3月に緊急出版されたベストセラーの日本語完訳版。

「今朝、目を覚ましてロックダウンのニュースを見て、誰もがすっかりうろたえた。これは何を意味し、どれくらい続き、どんな準備をすべきか、予測しようがない」(1月23日)

「世界は怖いほど静寂。私は独り暮らしなので、たまに聞こえる廊下の物音で、かろうじて他にも人がいることを確認する」(1月24日)

「封鎖が解かれたらどんなに嬉しいだろう。この困難を乗り越えたら、私の人生は確実に一歩前進する。その後、すぐに考えるのをやめた。まだロックダウンが始まって二日目」(1月25日)

「人は閉じ込められても、立ち止まっているわけにはいかない。自分を動かす何かを探さなければならない」(2月2日)

「人々は希望があるから行動するのではなく、行動することによって希望を生み出そうとしている」(2月19日)

「いま、やむなく家にいる人たちは『幸運』ではあっても、決して『幸福』ではない」(2月26日)              
                 ──本文より抜粋──

本書について、翻訳者の早稲田大学名誉教授・稲畑耕一郎氏は次のように「訳者あとがき」に記している。

「著者の郭晶さんは、一九九〇年生まれ、大学で社会学を学び、卒業後は自身のある体験からソーシャルワーカーとしてフェミニズム運動に身を投じ、女性差別や家庭内暴力の問題の処理に尽力してきた女性である。そこで、この『日記』には、ロックダウンの日々の自らの生活の記述を核にして、そうした視点から、同世代の仲間とのビデオチャットでのやり取りを始めとして、同じコミュニティの住民、近隣の商店主、清掃作業員、建設作業員、宅配業者らの声を掬い上げている。その結果として、都市封鎖という異常事態の中での中国の庶民が直面する社会問題が巧まずして描き出されていく。『日記』はインターネットのブログで日々公開され、フォロワーからの反響も大きかった。
(中略)
 武漢のロックダウン期間のすべてがこの『日記』一書に記されているわけではない。著者もそのことはよく自覚しており、行文からもその姿勢は明確に読み取ることができる。これは、郭晶さんの「武漢封城」の日々のレポートである。しかし、この記述は、いかに偏りがあるとしても、彼女が実際に目撃し、体験し、多くの人に取材して、それを基に自らの考えを記したものであり、その中に武漢の都市封鎖期間の一片の真実が描かれていることは疑うまでもない。著者の目線は決して上から見下ろすようなものではなく、地上を這うようにして書かれている。私たちはそれを通して、中国社会の現在を深く知ると同時に、私たちと同じ思いで耐え忍んで暮らす人々が武漢にもいることを確認できる。それが本書の魅力であり、価値である」
                                    (北川達也・潮出版社編集局出版部)

◆著者・翻訳者
【著者】 郭 晶(Guo Jing)ソーシャルワーカー、フェミニズム活動家。
1990年生まれ。雇用における性差別の撤廃と女性のための平等な雇用環境の構築を目指す「074法律顧問ホットライン」発起人の一人。2019年11月から武漢在住。20年1月23日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため武漢が封鎖された日から、日々の生活の様子をネット上に綴り公開。その日記の閲覧数は191万人にも上った。

【翻訳者】 稲畑耕一郎(いなはた・こういちろう)
早稲田大学名誉教授、南京大学文学院客員教授。1948年、三重県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、大学院文学研究科博士課程満期退学。これまでに北京大学考古系訪問学者、南開大学東方芸術系客員教授、北京大学中国古文献研究センター兼任教授、早稲田大学中国古籍文化研究所所長などを歴任。著書に『一勺の水―華夷跋渉録』『神と人との交響楽―中国仮面の世界』『境域を越えて―私の陳舜臣論ノート』『中国皇帝伝』『出土遺物から見た中国の文明』、監修・監訳に『図説中国文明史』(全10巻)、北京大学版『中国の文明』(全8巻)など多数。

◆書誌データ
書名 :武漢封城日記
著者名:郭 晶
翻訳者:稲畑耕一郎
出版社:潮出版社
刊行日:2020/09/25
定価 :1760円(税込)