社会を変えるにはどうすれば良いのだろう。本書では豊富な実例から社会を変えるためのコミュニティ・オーガナイジングの考え方や手法を学ぶことができる。イギリスのシティズンズUK(https://www.citizensuk.org)のディレクター、マシュー・ボルトンによる原著How to Resist: Turn Protest to Powerのサブタイトルにあるように、社会を変革するには、抗議だけではなく、自身と異なる人とも関係性を築き、パワーをつくりあげて、対立相手と交渉する必要がある。

 シティズンズUKや、米国のソウル・アリンスキーに連なるコミュニティ・オーガナイジングの意味、日本の市民社会に対する本書の意義については、各章と冒頭「本書の読み方」に譲る。ここでは生活賃金(Living Wage)についてだけ簡単に紹介しよう。法律による最低賃金では労働者が普通に生活するには低すぎる(とりわけロンドンでは)。そこで、生活に必要な賃金の額を明らかにし、企業や行政機関など個々の雇用主がその生活賃金を支払うことを認めさせる運動が生活賃金キャンペーンである。
 7章にはこの運動が3つのBという奇妙な連合によって可能になったとある。Bishop、Business、そして現イギリス首相のBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)である。社会正義や生活賃金を払うことで高まる雇用主の評判や労働者の定着率を訴えることによって、宗教、雇用主、そして政治家たちからもこの運動は支持を得た。ボリス・ジョンソンは保守党のリーダーとして生活賃金に賛同したというが、日本で報道されるのとは異なる現実的な彼のイメージが本書にはある。

 生活賃金以外にもこのページをご覧の読者にとって、シティズンズUKの難民支援や女性に対するヘイトクライムへの抵抗運動、また救世軍による性的同意年齢引き上げ運動など興味深い実例が多いのではないかと思う。映画やSNSをどう使うか、国会議員に影響を与えるにはどうしたら良いのか、人々との関係性をどう作るか、大きな問題をどのように具体的課題に分解するか。3章にあるスティック・パーソン、一対一の対話、パワー分析など「使える」ツールもある。8章にあるように、自分の生活を大切にし、社会を変えるための時間をどのように作るかが、最も大切なことかもしれない。
 本書は社会運動論の入門書として捉えることもできるし、大げさに捉えず、読者皆さんの個人的な暮らしにも役立つ内容が満載だと思う。ぜひお手にとってみていただきたい。 坂無淳(訳者)

◆書誌データ
Bolton, Matthew, 2018, How to Resist: Turn Protest to Power, London: Bloomsbury Publishing .(藤井敦史・大川恵子・坂無淳・走井洋一・松井真理子訳,2020,『社会はこうやって変える!――コミュニティ・オーガナイジング入門』法律文化社.)
刊行日:2020/09/25
定価 :本体2400円(+税)