「不適切な入試があったとみなさざるを得ない」。
 2020年10月1日,文部科学省は,聖マリアンナ医科大学に対し,左記のとおり口頭で通告したことが明らかになりました(10月7日)。
 日本私立学校振興・共済事業団は,近く私学助成の減額を検討するようです。

     リンドウ 花言葉は「正義」

 2018年12月に文科省が「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査最終まとめ」を公表してから,ここに至るまで1年10か月もの時間を要しました。
 医学部入試における女性差別弁護団日誌<連載19>で報告したとおり,同大学は,2019年12月に第三者委員会により性別による一律の差別的取扱いが行われたものと認めざるを得ないと指摘されてもなお,差別的取扱いを認めていません。
 2020年9月3日,文科省は,同大学に「聖マリアンナ医科大学第2次受験者点数分布の性差の統計的有意性」と題する文書を交付し,「別々の与えられた得点に男女が作為的に割り付けられた」と指摘しています。これに対し,9月28日,同大学は,全体的な傾向として,男女間に点数差が存することや,文科省の採用した統計学的分析手法の信用性や妥当性を認めつつも,「属性を理由として一律的に取扱いの差異を設ける」行為の意味は,「当該属性に属する全ての受験者に,その属性を理由として,均一の加点,減点を機械的に行うという意味であり,統計学的な有意差の有無による判断と異な」り,この意味において,「一律の差別的取扱い」はしていないと,不合理極まりない主張を展開しています。
 さらに,同大学は,評価担当者らによる「将来良き臨床医」となる資質が類似し運動系部活動や課外活動における部長経験などの実績を評価項目として重視したことや,医師の適正配置や医療体制の維持を慮る潜在意識あったことが,結果論として男女の得点差につながったにすぎないと主張しています。しかし,この論調こそ,「男性」のほうがより医師として望ましいと,同大学が考えていた,そして,不正が指摘された今でも考えていることを端的に表しているのではないでしょうか。
 同大学は,新型コロナ対策にあたる現場の医師には,相当の負担が強いられており,タフネスが求められる結果となっている現実は,日本の医療界全体の問題であり,入学試験の当否といった大学内に留まる問題ではないと主張しています。今この瞬間,目の前の患者を救うために全力で治療にあたられる医療従事者の方々には心から敬意を表します。だからこそ,同大学は,性別に関わらず,医師らが健全に治療あたれる体制の構築に尽力すべきであり,入学試験における性差別を,医療現場の過酷な現状の問題にすり替えてはなりません。
 文科省や第三者員会の再三の指摘にも関わらず,上記のような不合理な弁解を続けてきた同大学に対し,今般,文科省が行った通告は,至極当然のものです。

 当弁護団は,10月14日,同大学に対し,損害賠償請求訴訟を提起します。訴訟の経緯は,随時ご報告して参りますので,今後も経緯を注視いただければと思います。