家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ (角川新書)

著者:信田 さよ子

KADOKAWA( 2021/03/10 )


 今回、この記事を書くにあたり、本書の企画相談をいつしたのだろうか?とメールをさかのぼっていったところ、2015年10月14日のメールにたどり着きました。企画相談から5年強かかり、信田さんの新書作品としては7年ぶりの新作となりましたが、コロナという禍を人が、社会が経験した2021年という時期に刊行できたのは良かったかもしれない、と改めて感じています。  信田さんも「あとがき」でこう書かれています。

「きわめて個人的と見えるできごとの背後に、国家や政治の意図を読み解く必要があるということ。今ほど、それが実感を伴う時はないとさえ思う。こんな時期に本書を刊行する機会に恵まれたことは、ラッキーだったかもしれない」

 企画の相談をした2015年の自分のメールを読み直すと、「国家のミニチュアが駆動しやすい場所、最初に国家のミニチュアを体感させられ、奴隷根性が植え付けられる場所として、家と学校は大きいよなあ、と思うようになり」とあり、本書の「あとがき」との呼応に担当編集者として感慨にとらわれました。信田さんが粗雑な編集者の問題意識を包含し、より広く深く展開していってくれたことを改めて感じたものです。
「国家や政治の意図を読み解く必要がある」世界を生きる羅針盤の一つに本書はなってくれることと信じています。言語化されることによって、見えるものがある。概念が提示されることでガラっと世界の見え方は変わるからです。
記事の表題にした言葉はそのよい例で、帯にも使用したものですが、本文中で胸にぐさりと突き刺さった言葉です。「家族は、以心伝心ではなく、同床異夢」。言われてみれば、それはそうだよね、と思われる言葉かもしれませんが、突きつけられなければ気が付かない事だと思います。
 本書で展開されるレジスタンスという概念も、まさにそのような概念だといえるでしょう。
 加害者更生も重要である、ということは少しずつですが広まってきました。しかし、レジスタンスの概念はまだまだです。サバイバルでもレジリエンスでもなく、レジスタンス。やむを得ず加害者の元を即時に離れられない人たちをも支える言葉だと原稿を読んでいて私は感じました。愛想笑いも自虐的な仕草も被害者の「抵抗運動」なのだ、と意義付けをし直すものとなるのではないか、と。目に見える、わかりやすいNOの表示でなくとも、葛藤を抱えた振る舞いそれ自体がNOの意思表示であり、それをしている被害者はただやられているのではなく、立派に抵抗運動をしているのだということも可能になります。
 レジスタンスという概念が、読者の皆さんの血肉となり、武器となることを願っています。

◆書誌データ
書 名:家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ
著者名:信田さよ子
出版社:角川新書
刊行年:2021/03/10
定 価:990円(税込)