「予期せぬ妊娠 保護すべきでは」――2021年2月22日、朝日新聞「声」欄に、こんな見出しがありました。
1月28日、高校生がトイレで出産し、赤ちゃんを殺害し逮捕されたとことが報じられました。その事件について「声」では、「私は、『なぜ?』という思いに駆られた。」と綴っています。
「必要なのは、逮捕ではなく保護されることではなかったのか。彼女は一人で苦しみ恐怖に駆られながら出産し、どうしようもなかったのではないか。予期せぬ妊娠をしてどうすることもできなくて、…中絶できる期間を過ぎてしまったら、どうしたらいいのだろう。」
そのあとには、投稿者自身が10代で予期せずに妊娠をし、期限ぎりぎりで中絶したと続けています。お住まいの県名も名前も年齢も公表しての投稿に、事件と合わせて、胸が締め付けられた方は、たくさんいらしたのではないでしょうか。
「未婚の母」とは言うけれど、同じ数だけいるはずの「未婚の父」はどこにいるのだろう?
先生には産休も育休もあるのに、なぜ、女子高生は退学しなければならないのだろう?
――私自身、ずっと抱いてきた疑問です。
本書『見えない妊娠クライシス』は、医師や助産師、子ども家庭福祉や家族法の研究者が、相談・支援の現場から見える実態、統計資料や海外の制度の研究などから多面的に、総力で企画・出版した本です。
見えにくかった妊娠クライシスは、期せずしてコロナ禍で、少し見えやすくもなりました。浮き彫りになったのは、妊娠をも自己責任とする悲しく冷たい日本社会の姿でした。そして、相手にすら言えず女性自らが妊娠を自己責任と思い込んでしまう背景には、男女の関係性の不平等が根強くあるのでした。
編著者・佐藤拓代さんの、妊娠期からの切れ目のない支援、母子支援から家族支援へ、集団支援から個と個の支援へ、誰でも相談できる子育て世代包括支援センターへ…との提言には、法律や政策を動かし制度を変えていこうという説得力があります。
また、韓国の養子縁組や秘密出産制度、ドイツの内密出産制度など、海外の母親のプライバシーと子どもの出自を知る権利の保障は、日本では想像もつかないほど深い人権尊重の思想と歴史に裏打ちされていることがわかります。
「声」の投稿者は、「もうすでに十分傷つけられた彼女が、これ以上苦しめられることがないよう願わずにはいられない。」と結んでいます。
「誰にも言えない妊娠に悩むひとりぼっちの女性と、
生まれたその日にいのちを落とす赤ちゃんを
なくす社会をつくる。」
「自己責任」としていては、お母さんのいのちも赤ちゃんのいのちも守れない――本書冒頭に記された決意の言葉です。 (みわ・ほうこ かもがわ出版編集部)
◆書誌データ
書名 :見えない妊娠クライシス
編者 :佐藤 拓代
著者 :松岡典子・赤尾さく美・姜 恩和・床谷文雄
頁数 :172頁
出版社:かもがわ出版
刊行日:2021/3/11
定価 :2090円(税込)