
オンラインイベント『十代の女の子たちへ 上野さんと話そう!』に関連し、今年4月4日に4校合同オンラインイベントを計画・実施してくださったY・Mさんが、寄稿してくださいました。
プロジェクトに生かして欲しいと、詳細なプロセスや状況、Y・Mさんご自身の“学び”についても明らかにしてくださいました。
力強く、明るく、前向で元気の出るコメントです。
開催要項はコメントの後に再掲します。
皆さまからのご応募をお待ちしてります!
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「4校合同中・高・大学生×上野千鶴子 拡大ゼミ」の実施報告
H学園中学校・高等学校教諭 Y・M
2021年4月4日、春休みに、上野先生をお招きして、総勢50人ほどのZOOMゼミを実施しました。参加者はH学園(男子校)、S学園(共学校)、M学園(女子高)、N高から集まった中高校生、OBの大学生、教員、メディア関係者となります。以下にどのようなイベントであったのか、どのような目的で行われたのかの概略を示し、もって、今後WANの“ジュニア世代プロジェクト” に生かしていただければと思います。
(1) 実施時日 2021年4月4日13時~16時 ZOOM
(2) 主催 H学園社会部:顧問、生徒(高校2年2名が司会進行を務める)
(3) 参加した「四校」の属性
① H学園(男子校)…東京都内にある、次年度創立100周年を迎える進学校。小学校卒業後、女子と会って喋る機会がほとんどないまま大学に進学する生徒が多く、さらに理系に進めば大学でも女性と話す機会がないまま思春期を過ごす。この状況に危機感を覚えたY・Mは、社会部の活動に「現場主義」を取り入れ、年齢・性別・国籍・職業・に関わらず、できるだけ多種多様な人々と出会う活動を通じて、生徒たちの固定観念を突き崩そうと日々奮闘している。
② M学園(女子高)…今年度よりスラックスを制服に導入し、制服の選択を増やし、トランスジェンダー生徒も受け入れられる体制を整えた。自主自律できる女性を育成することに主眼をおいた女子教育を展開している。H学園社会部の副顧問I先生がM学園の卒業生だったことと、スラックス導入に尽力したY教頭先生が「模擬国連」に挑戦する生徒たちに声をかけて参加者を募ってくれたことから、今回のコラボレーションが実現した。
③ S学園(共学)…K教諭を中心に、スクールダイバーシティを推進する自主活動グループが生徒会付属組織として様々なボランティア活動やデモンストレーション活動を実施している。トランスジェンダーの生徒も存在する中、個人を尊重し、生徒自身が着たい制服を着られる環境を制度として構築することを目指している。(現在は学校に「異装届」を出して許可を得る、という手続きが必要だが、それを撤廃することを目指しているということ。)H学園とは、2年前に東京レインボープライド(*)で顔合わせを行い、それ以来、S学園の活動からH学園は学ばせて頂いている。
*東京レインボープライド2021 https://tokyorainbowpride.com/
④ N高(共学)…対面授業とオンライン授業を在校生は選択できる。参加してくれたのは対面授業型の生徒で、高校1年時にH学園からN高に転じた元H校生である。N高には制服も存在するが着ても着なくてもよく、また男子も女子も着たい制服を着てなんら差し支えない。ジェンダーレスで校則も固定の授業の枠組みもない、未来型の教育を実践している。参加したH君は現在高校3年生で、学校内外でのジェンダー・ダイバーシティ実現のためにNPO設立やドラマ映像作成など様々な活動を行っている。
(4) 謝礼 なし。
(5) 費用 なし。各自自宅から参加(通信費自己負担)。
(6) 目的 上野先生とのディスカッションを通じ、学校や性別、年齢や障害といった「縛り」から自らをいかに解放し、価値観の選択肢を増やし、一人ひとりの確かな人生を実現していけるか、を考える切っ掛けを作る。
(7) 事前学習 上野先生の近著『女の子はどう生きるか』を読んでくること
(8) 当日運営
①Y・Mより全体挨拶+スケジュール説明(2分)
②上野千鶴子先生の自己紹介(3分)…これは、Y・Mより「最近やってしまった失敗について語って下さい」とお願いしていた。先生の愉快なお人柄を伝えるような自己紹介をして頂ければ、という思いで決めたタイトルであったが、果たして先生の諧謔が中学生に伝わったのかどうか…。
③第一セッション(10分) 「報道ステーション」のWeb用CMを何も事前に情報を与えないまま視聴してもらい、ブレイクアウトセッションで感想を述べあう。
④第二セッション(30分) メインルームに全員を戻し、各ルームでどのような話が出たかを報告。上野先生より、報道ステーションのCMに流れる女性蔑視の視点を解説。生徒教員から活発な質疑応答がなされる。(この段階ですでに予定時間オーバーが確定した。)
⑤上野先生の近著『女の子はどう生きるか』を読んでの質疑応答(20分)
⑥事前アンケート(「これまでに受けた差別はどのようなものがありますか?」「女性専用車両は男性差別だから廃止すべき、という意見についてどう思いますか?」など)に基づく上野先生のコメント、質疑応答(20分)
⑦痴漢に遭ったことがある男子(N高のH君)からのプレゼンテーションと質疑応答(20分)
⑧全体で学んだことをブレイクアウトセッションで話し合う(20分)
⑨全体にシェア(20分~)…この時間は上野先生が次の仕事のために15時半にZOOM OUTされたのちも延長戦に入り、主催側のY・Mが18時半まで、10名ほどの生徒たちと深い自己開示を含め様々な話し合いを行った。ラポールがなければ不可能なことで、このような稀有な経験をさせてもらえたことを参加者全員に感謝している。
(9) 備考
生徒の中には自分がセクシャル・マイノリティだとカミングアウトしている者もおり、またセッション外の延長時間では、女子生徒らが日々電車や生活の中で痴漢やセクハラといった性暴力にさらされ傷ついているということも明らかにされた。泣きながら喋った生徒たちも多い。しかし終わった後は重い荷物を下ろしたような、自らの感情や希望するものが間違っていないんだという手応えを得て、明るい顔をして終えた子どもたちが多かった。
しかしこのことからも分かるように、このゼミはあくまでゼミであり、講演会ではない。子どもたちの、また参加した大人たちにとっても、深い自己開示とともにじっくりと「わがこと」として受け止め、感じ、考えることができたのは、やはり参加者同士がフラットに、(時に上野先生との対立的な)議論に参与することができたからであったと思う。
したがって参加者は50人を上回るべきではない。50人弱でも、参加者の属性も様々で、慣れていない運営側にとっては、司会進行にまつわるすべて、たとえばブレイクアウトセッションの割り当てや、時間と議論の盛り上がりを見ながら全体を統括することはかなりの負担であった。途中でH学園OBが見かねて共同ホストを担い、ブレイクアウトセッションの割り当てを分業してくれたり、S学園のK先生が全体チャットに続行中の議論のポイントを入力して直していってくれたりするなど、臨機応変のサポートのおかげで乗り切ったが、運営をすべて生徒に任せる場合は、かなり細かく分業し、リハーサルしておく必要があるだろう。
具体的には、「計時」「ブレイクアウトセッションルームの作成」「入室許可」「書記(チャット入力)」が「総合司会」以外に必要で、さらに「ブレイクアウトセッションルームの司会」も、参加年齢層が低い場合は、事前に決めておく方が、議論が活発になるだろう。
(10)総括「拡大上野ゼミを通じて学んだこと」
最後に、個人的に私がこの「ゼミ」で得た学びについて記させていただく。運営方法についてのみ興味のある方は、ここは読み飛ばしてくださって構わない。
私は現勤務校に在職して20年になる。待遇に特に不満はない。(不満がゼロとは言わないが、耐えられないような差別や不遇をかこつということもなく、私のような跳ねっかえりを受け入れてくれているのがH学園である。同僚や上司もおおむね理解してくれ、やりたい仕事をさせてもらえており、生徒たちもかわいく、多忙ではあるが非常に幸せな人生を送っていると思う。)
しかし、ジェンダーという点で見た場合、本校では「正規雇用の」女性教員はこの20年間ほとんど増えていない。英語科に4人、理科に1人、社会科に1人、家庭科に1人、養護教諭1人の計8人である(なお、非常勤講師や理科助手には女性教諭は多く、また養護教諭は全員女性である)。また女性教諭で現在担任を持っている者は一人もいない。いわんや管理職をや、である。
このような男性中心の環境下で、「上野ゼミで学生時代にジェンダーやらフーコーの生権力論やらポストコロニアリズムやらを叩き込まれたフェミニスト女性」の私は、どういう気持ちがするものなのか、皆さんには想像がつくだろうか。おそらく、「女性として最初の〇〇」という肩書で呼ばれたことのある世代の方々なら、「なんとなく想像がつく」といってくださるのではないかと思う。例えば大学教授や国家公務員や自動車会社や保険会社や地方議会や…で、「女性として初の〇〇」は常に話題になっているから。
しかし、私の職業が、男子進学校の中高校生を教える社会科教員である、というのは、非常に微妙なポジションに自分を置いていることなのだと思う。自分のもつ影響力が大きいのか小さいのか分からないが、私自身は、かなり意識して自分の権力を行使している。つまり、教育は良くも悪くも次世代の「洗脳」であるから、私は精一杯、「人間は社会的動物であり、環境に依存して生きていくしかない精神>肉体の生物である。したがって君たちはなるべく多くの成員が幸せになれるよう、男女・年齢・国籍・貧富・障害の有無等による差別をせず、個を尊重し、自由かつ平等を旨とする、民主的な共同体を作っていく責任があると考えて欲しい」と「洗脳」しているのである。
フーコーは近代社会とは規律訓練型社会なのだと喝破した。近代では特に子どもたちを(最近は高齢者もその対象になっているが)、学校という規律・訓練センターに隔離・収容し、「教育」を施し、テストと学習指導要領で持つべき知識を「規格化」し、規律を内面化させ、もって社会秩序とGDPを維持発展させる労働者を大量生産する。そういう方法をとってきた。
つまり学校は一種の工場と化している。教員には進学実績といういわば「品質管理基準」が与えられる。生徒たちは「この学校に入ったんだからそれなりの大学に受からなくちゃ」という「希望」を内面化する。「やりたいからやる」のではなく、「それをしないと落ちこぼれるからやる」脅迫的な勉強によって、時間のかかる学問的追求は「あとまわし」になる。そして「〇〇大学合格」の暁には、「おめでとう、よく頑張ったな!」と祝福して卒業させる。
―――そういう「教育」が、日々、日本中の進学校で行われている。
これをミクロ的に言えば、進学校の生徒達は、良質な「働きアリ」になるための「マウント合戦」を日々教室内で戦っているということに他ならない。そして「全国ランキングトップ100」(何の「トップ」なんだかわからないが)の進学校は、良質な働きアリ(時に良質な兵士)をいかに大量生産したかを競い合うことになる。「トップ100」に入らない少女たちは、良質な働きアリがもっとよく働くように、家事と育児を一手に引き受け、さらにパートタイムで良い働きアリになることを、日本という巣「全体」から期待されている。
このシステムは気持ちが悪いし、時代遅れだし、個人の個性もなにも無視する暴力的なものだ。既にそう分かっている人々は非常に多い。過去に様々な衣装をまとって現れた「詰め込み教育」批判も、「個性尊重教育」の要求も、「ゆとり教育」も、「アクティブラーニング」の導入も、現場の教員たちがなんとかして子どもたちに主体的な学びを実現したい、個性ある生徒を育てる一助となりたい、という悲願があったのである。
しかし、にもかかわらず、この規律訓練型社会の罠から逃れるのは難しい。なぜなら近代資本主義社会が要請してきたシステムだからである。
それで、せめて自分の主宰する社会部の中だけでも…と思い、部員たちには「自由に発想せよ」「ネットから拾った情報に依存するな」「現場にいって人に会え」「固定観念に気づけ」と強制してきた。(これも一種の「脅迫」である…。)
こういう脅迫的な部活に参加した生徒たちの多くは、大学進学前にやりたいことをだいたい決めて進学し、大学生・社会人になってさらに活躍している人が多い。「社会部で被災地に行ったりビジネス・アイデア・コンテストに出たり起業家や政治家に会ったりしたことは、成績を直接上げる役には立たなかったが、進路を決める役には大いに立った」と卒業した生徒たちが言ってくれるので、やって良かったとは思う。
しかし、一般の生徒はどうかというと、厳しいのである。これはH学園生だけに限ったことではなく、一般に子どもたちは、偏差値と苦手科目で大学(または高校)を決めていくのである。そしてジェンダー問題についても、資本主義が不可避的に生み出す外部性(環境問題が典型だが)についても、深く考察する機会もなく産業社会に入って行くのである。そして企業内・外での「働きアリ」たちのマウント合戦は再生産されていくのである…。
上野先生との「拡大ゼミ」でジェンダーに関する話し合いが進む傍らで、私が一番考えていたのは、このくだらない「教室内マウント合戦」をいかにして終わらせればいいのか、ということだった。
上野先生は何度も「学校が安全な場所じゃないのね」「学校が学びの場ではなく勝ち負けの場になっているのね」「学校では子どもたちは素ではいられず、武器と防具を背負って戦っていなくちゃならないのね」という趣旨のことを仰っていた。
私は一学校教員として、本当にそうだと思った。そして、私が今からやるべきことは、まず生徒たちの武装を解除させ、身軽になって素のままの互いを認め合う平和なエコシステムを自分の教室から作り出すことにあるのではないか?と思うようになった。システム全体を変えるようなことは私には不可能だが、システムから飛び立って別のシステムを構想する「遊びアリ」とか「旅アリ」、または「ノマドアリ」を生み出していくことは、できるんじゃないか、と思ったのである。
ジェンダー問題についての議論が中心の「拡大ゼミ」で思わぬ結論に至ったのであるが、「こんなシステムの再生産に加担していているのは倫理的なことなのだろうか」とずっと悩んでいた私にとっては、非常に有益な学びを得る機会になった。本当に上野先生には頭が上がらないとしか言えない。
最後になるが、私は学生時代から非才無能な上野研究室門下生として、種々ご迷惑をおかけしてきた。にもかかわらず先生は常に優しく、知的なメスによって脳細胞が切り開かれるような経験を毎度のようにさせて下さる。先生に20才の春に出会えたことは、私の一生の財産である。(生徒に上野先生についての感想を聞いたところ「Y・M先生の先生だってことが、よくわかりました。そっくりです。」といわれました。)
卒業して四半世紀ほどになるが、今回の機会を頂けたことを心より感謝申し上げたい。また先生のますますのご活躍をお祈り申し上げると共に、「おひとりさま」の老後を生きること確実な不肖の弟子として、これからも先生から学んでいきたいと願っている。
先生、私より長生きしてくださいね!
Y・M
2021年5月5日 子どもの日に寄せて
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オンラインイベント『十代の女の子たちへ 上野さんと話そう!』開催要領
●申込方法:高校生自身が先生に上野さんと話したいと希望する、あるいは、先生や学校、そして学校を超えたグループが企画するなど主催者を決め、成人のWAN 会員がお申し込みください。
参加者は同一高校、中学である必要はありません。複数の学校の生徒が一緒に参加することもできます。
●定員: 50人(最小履行人数を10人とさせていただきます。)
●開催方法:Zoomによるオンライン。
最新バージョンのZoomアプリを事前にPC、タブレット端末、スマートフォンのいずれかに入れておいてください。
●所要時間:約120分 所要時間は目安です。変更についてはご相談ください。
●概要:上野千鶴子著『女の子はどう生きるか 教えて!上野先生』の読後感想、日頃のモヤモヤ感、疑問を高校生より事前に募り、当日、上野千鶴子と質疑応答、対談をします。参加者は事前に上記の著書の既読をお願いします。
『女の子はどう生きるか 教えて!上野先生』岩波ジュニア新書 定価968円
●開催資格:主催者がWAN会員であること、あるいは申込時にWAN会員になることが必要です。
(2021年度会費10,000円。)
●参加者:高校生、中学生
(先生・保護者は傍聴可ですが、あくまで主役は十代女子としてください。)
●講師料:不要
●お申込み&お問合せ先: info-npo@wan.or.jp宛
・「件名:ジュニアプロジェクトチーム」としてメールでお申し込み、またはお問合せ下さい。
・お申込みの際には、主催者氏名、複数の開催候補日時、参加予定人数(先生・保護者・生徒)、開催場所をお知らせ下さい。
・会場を借用して開催する場合、会場費用はご負担ください。
*お申し込み多数の場合は、選考させていただきますので、ご承知置きください。
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