
とても親しみやすい文体でLGBTを取り巻く課題を解説した本である。本書を読んで、なるほどと思うことがたくさんあり、とても勉強になったが、同時に自分の経験がつぎつぎに思い浮かんでくるのが面白かった。あとがきによると「いわゆる多数派、つまりLGBTではない人たちが読んでいるうちに「あれ、これは自分のことだぞ」と思ってしまう本」をめざして書かれた本ということであるが、著者のねらいは、LGBTの課題はマジョリティにとって他人事ではないことを効果的、説得的に伝えている。
長年大学でジェンダー論の入門的授業を担当してきた。初回にジェンダーに関するどんなことに関心があるかを書いてもらうアンケートを行うが、この10年ほどの間にLGBTに関心があるという学生が急増してきた。どういう関心の持ち方であるのかは文面からはよくわからないことも少なくないが、「友だちにLGBTがいるので関心をもった」という説明がけっこう多い。
ジェンダーは長年無意識に身につけてきた思い込みを揺さぶる課題であるため、感情的な反発も少なくない一方、その思い込みを認識し目からウロコが落ちて少し自由になるという経験をする学生も多い。「友だちにいるから」というLGBTへの関心は、自分とは異なる他者への関心であるように表現されているが、セクシュアリティはジェンダー同様に第三者的「絶対安全地帯」から高みの見物ができる問題ではないので、「他人事」としての関心から入っても、それなりに深い学習ができるとは思う。以前に比べたら身近な存在であることを知る機会が増えたのだろうし、「友だち」と言いながら実際は自分のことを語っているのではないかと思われる記述も少なからず存在する。200人規模の、それもジェンダー論の授業にLGBT当事者がかなり参加している可能性は高いだろう。
実際には多様な人々が厳密に非対称に二分類されることを前提としてきた社会で、「標準」からの外れ方は多様ではあるが、外れていることによる困難には共通性がある。著者は「まわりのみんなと違っていること」について、LGBTの思いや経験を平易で温かな文体で語っている。「まわりのみんなと違っていること」は「個性的」であるとして評価されることも多くなってきたが、「みんなと同じでいたかった」という密かな悩みをもつ人も少なくはない、とは確かにそうだろう。本書で語られる悩みや思いについては、LGBT当事者だけではなく、大多数の人に思い当たる経験があるのではないだろうか。
たとえば第2章は広く学校生活について述べられている。本章を読んで私にも思い当たることはたくさんある。ほんの一例だが、私の娘は小学校入学の時に上級生による「一年生くん弟くん」という歌の斉唱で迎えられた。この歌の歌詞は3番まであるのだが、「最後まで「弟くん」だったわ」とガン無視された娘は怒っていた。女性が自分は社会の「主役」ではないと思い知らされるのは、まずは小学校である。今はもう少し改善されているのかもしれないが、学校は実に厳密に性別を区別し、男を優先する社会であった。男子大学生からも「避難訓練の時に男女に分けて男子が先に逃げるっておかしくないか」等々貴重な意見も出ていた。この厳密な非対称の二分世界で違和感や居心地の悪さを覚える人は少なくない。本書は、それがLGBTの困難と地続きであることを示している。
中でも興味深かったのは第1章の後半で語られるカミングアウトについての考察である。著者はカミングアウトについてのセンシティヴな状況を丁寧に説明した上で、自身のカミングアウトについて語っているのだが、友人たちの「対等でちょっとおかしい」リアクションが素敵である。そして著者はカミングアウトしてから友人に秘密を打ち明けられたり相談されたりすることが増えた、という。友だちは対等な関係であるがゆえに、相談する側、される側の垣根がいとも簡単に乗り越えられるのである。著者も書いているように、これはたとえば相談されることが仕事のカウンセラーであればありえないことである。対等な関係だから、折り入っての相談も秘密の開示も相互的になりうるのである。一方で「友だちは気まぐれでマイペースなので、残念な対応が返ってくること」もある、と著者は言う。ひとつの「正しい対応」があるわけではない。「モンモンとした」状態に耐える力が私たちには必要である。
本書を読むと、読者もまた、自分のことを話したくなる。対話に開かれた入門書である。
同じ著者の以下の本もおすすめである。
遠藤まめた『ひとりひとりの「性」を大切にする社会へ』新日本出版社
◆書誌データ1
書名 :みんな自分らしくいるための はじめてのLGBT
著者名:遠藤まめた
出版社:筑摩書房(ちくまプリマ―新書)
頁数 :207頁
刊行年:2021年6月10日
定価 :902円(税込)
◆書誌データ2
書名 :ひとりひとりの「性」を大切にする社会へ
著者名:遠藤まめた
出版社:新日本出版社
頁数 :167頁
刊行年:2020年1月21日
定価 :1650円(税込)
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