メキシコ、〈第三世界〉と聞くと、遅れた国、貧困、危険・・・といったバイアスがかかりはしないだろうか? 女性が社会進出し、一部で同姓婚や性・氏名の変更が自由にできるといった配慮がすすむラテンアメリカの状況が、日本において伝えられる機会は少ない。本書は、〈第三世界〉と呼ばれたメキシコにおいて活躍した女性作家ロサリオ・カステリャノスの、フェミニスト作家としての功績を再評価する試みである。
メキシコをはじめとしたラテンアメリカ特有の知識人のありかたや、男性優位主義と訳されるマチスモについて概括したのち、小説作品を読み解くなかで、社会から忌避された《産まない女》たちに託した作家の意図を解き明かす。カステリャノスは、欧米における第二波フェミニズムの胎動期、同じメキシコ人女性であっても、階層や民族の違い、貧富の差が存在するさまを描いていた。
かつて植民地であったこと、先住民文化を擁することといった共通項を抱えるラテンアメリカにおいて、独自のフェミニズムの動きがあった。メキシコで、裕福な階層出身の高学歴の知識人の女性作家という複数の関係性が重層的に錯綜する状況を、作家自身が体現するなかで、社会に向けて提言しようとした際に直面した困難さと、それについていかに対処を試みたかが論じられる。
女性登場人物に焦点化することで、女性ゆえの苦悩を顕在化させたカステリャノスの思想を新たに評価した本書は、21世紀の現代に生きる女性の生きづらさにアプローチする上でも示唆に富む。本書は、お茶の水女子大学に提出した博士論文を加筆修正し2020年度竹村和子フェミニズム基金の助成を受けて出版された。主指導であった故竹村和子先生からいただいた学恩には、本書を刊行することでこそ報いることができたと考えている。
◆本書の内容
序 章 第三世界の知識人女性とは
第Ⅰ部
第1章 知識人として書くこと
第2章 向こう岸を語ること
第3章 女性の生き方にこだわる
第Ⅱ部
第4章 第三世界発のフェミニズム
第5章 マチスモ言説の語られ方
第6章 農園主一族の不名誉な独身女性
第7章 もう一人の「独身女性」
第8章 産めない女性と産まない女性
終 章 輝きを放つ文学の効用
◆書誌データ
書 名:『《産まない女》に夜明けはこない―ロサリオ・カステリャノス研究』
著者名: 洲崎圭子
出版社: 世織書房
発行日: 2021年6月30日
定 価: 4,180円(税込)
2021.08.23 Mon
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