井上輝子さんへの追悼文(WANの呼びかけに応えて)


井上さん

1979年に大学に入って「女性問題研究会」を立ち上げようとしたときの私は、まだ「女性学(women's studies)」という言葉さえ知りませんでした。もちろん、在学中に女性学もジェンダー学も授業にはなく、一人、本を通じて学ぶばかりでした。その頃の著者名でよく見かけていたのが井上輝子さんというお名前でした。

「女性の、女性による、女性のための女性学」という分野を構築された井上さんに敬意をこめて、今年の春、「日本の中絶の安全性は確認されたのか――日本産婦人科医会の医師らによる中絶実態調査報告の見直し」という論文が、ようやく『女性学』日本女性学会 学会誌 No.28に掲載されたことをご報告させてください。井上さんにもたぶん読んでいただけただろうことを願っています。

いつも笑顔で接してくださった井上さん、私がメンタルダウンして誰にも年賀状を出さなくなっても、毎年、賀状を送ってくださっていた最後の数人だった井上さん、しかも常にわたしの動向を見守ってくださっていることが分かる手書きのメッセージが添えられていました……どれほどありがたかったことか、言葉では言い尽くせません。

「日本の中絶問題研究」などという突拍子もない分野をわたしが言い出した時にも、「とても大切なことだから、ぜひがんばって」と応援してくださいました。

最後の栄誉ある山川菊栄賞をいただいた時の選考委員長が井上さんでした。本当に「ありがたい」ことばかりです……。

わたしのような40歳を超えてから研究活動を始めた者も含めて、きっと大勢の「女性学研究者」を育てて来られたのだろうと思います。

井上さんの撒いた種のひとつをわたしは育てています。大勢のフェミニストが育てています。わたしは今、リプロダクティブ・ヘルス&ライツを研究テーマにしています。再生産……つないでいくこと、育んでいくこと……の大切さと、リプロダクションをわが身で引き受けざるをえない「女性」の喜びと苦しみ。それを拒否できる「権利」の重要性も含めて。

わたし自身もあと10年がせいぜいで、20年はもたないだろうなぁ~と思っています。でもその間に、次の世代に「つないで」いきたいと思い、がんばっています!

井上さん、本当にありがとうございます。どうか見守っていてください!!

塚原久美


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井上輝子さん追悼 WAN掲載記事 https://wan.or.jp/article/show/9659
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