
「アイドル」という言葉に感じる居心地の悪さから、現代日本の暴力の問題について考えてみました。現在の問題を近代の歴史につなげ、「アイドル」と「慰安婦」という二つの記号を手がかりに、ジェンダーとナショナリズムの結びつきについて考えた一冊です。
応援している人々を元気づけるアイドルは、魅力的に輝いてみえる一方で、性的に消費されている。こうしたアイドルをめぐるシステムは、現代の性暴力をめぐる構造を象徴的にあらわしているように思えます。
アイドルを語る「アイドル論」や小説のなかにある物語を分析していくと、ヒロインとしてのアイドルは、戦争を舞台とした物語風景のなかにいることがわかってきます。彼女たちは、戦争の物語のなかで、戦うヒロインとして輝き、同時に、暴力的に消費されています。このとき、それを応援する男性ファンの痛みや傷をヒロインが肩代わりするしくみが派生しています。
アイドルの戦う舞台が比喩としての戦争だとすると、現実の歴史としての戦争の物語のなかで、つねに注目を浴びてきたのが「慰安婦」という記号であり、存在でした。「アイドル」という記号と「慰安婦」という記号を連続させて考えてみると、帝国日本が作りだしてきた、つねに女性を暴力の宛先として必要とする性暴力のしくみが、現在に大きな影響を与え続けていることがみえてきます。
帝国的な性暴力は、女性も男性も、ジェンダーやセクシュアリティをめぐる制度に対してどのポジションにある個人をも、暴力に依存させるしくみをもちます。それを批判的に眺める視点を作りだすことで、ヘイトや中傷が先立つのではなく、共鳴によって人が結びつく世界像を模索できるのではないかという思いから執筆を進めました。
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