#MeTooの政治学

著者:権金炫怜(クォン・キム・ヒョニョン)

大月書店( 2021/10/20 )


 『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本に紹介されて3年が経とうとしていますが、韓国フェミニズムの勢いはとどまるところを知らず、日本でも様々な本が翻訳出版されています。そんな中でも本書は、韓国フェミニズムの最前線を内側から分析した一冊であり、何が韓国フェミニズムの根幹をなしているのか知ることができる一冊でもあります。

 本書の中でもたびたび言及されているように、「#MeToo運動は革命」です。家父長制の根強い韓国で起こった#MeTooは、ことさら革命的であったということができます。初めて本書を読んだとき、この革命的な#MeTooを分析するスピード(韓国#MeTooの流れを作った徐志賢検事とキム・ジウン氏の告発があったのはそれぞれ2018年1月と3月で、原著出版は2019年2月)、そして運動を手放しで支持するのではなく冷静に批判しているところに、韓国フェミニズムの底力を感じました。その一方で、この勢いの裏面に多くの性被害や性差別が潜んでいることにも思いを馳せました。

 「地位のある相手からの性暴力(セクハラ、パワハラ)」「性被害の訴えが受け入れられないこと」「女性にだけ貞操観念が求められること」「家庭内暴力」「性産業従事者に対する暴力・差別」「トランスジェンダー・クィア差別」……。これらは本書で取り上げられているテーマでありながら、韓国の女性やセクシュアル・マイノリティの経験であり、おそらく、日本の女性やセクシュアル・マイノリティの経験でもあると思います。

 いまだにこうした差別や暴力がはびこる現実に胸の痛みと怒りをおぼえますが、それでも本書を読んで得られるのは、フェミニズムを実現していくための力です。著者らの文章には、フェミニズムが社会を変えていくリアルな闘いの過程が描かれています。この闘いの中から多くの言葉を学び、勇気を得て、現実社会の中で力強くフェミニズムを実践していきましょう。「#(ハッシュタグ)」とともに世界中に拡散した#MeTooですが、#MeToo、ひいてはフェミニズムが世界中のフェミニストをエンパワーメントすることを願いますし、本書がその一助になることを願っています。