著者のチェ・スンボムさんは、小さいころ、男の子ながら「女子らしい」遊びが好きだったそうです。しかし、「つづける勇気をもてなかった」と吐露しています。プロローグでは、韓国男子として生きることの現実を次のように書いています。
「私は積極的に『男になる』努力をした。グラウンドに出てサッカーをしたり、友人らとAVを見たり、何度かケンカをしたり、わざと大きな声で悪態をついたりもした。同じ年頃の集団で認められることは蜜の味だった」
著者と同世代で日本育ちの私自身も、とくに10代のころは、「同じ年頃の集団」で認められることが生存戦略上のテーマであったことを思い出します。
本書は、韓国の男子高校で教える30代男性の著者が、フェミニズムと出会い変わっていく姿、SNSや路上や教室でフェミニズムを実践する姿を描くエッセイです。
著者の「フェミニズム思考のはじまり」は、仕事とワンオペ育児と家事労働の沼でもがく母の状況に、「おかしい」と思った12歳のころ。そして、本格的にフェミニズムに出会うのは、性差別や性暴力に関するさまざまな場面を目の当たりにした大学時代です。先輩女性に対する呼び方が性差別的だと非難された経験もその一つ。
そんな著者が、いまでは国語の教師になり、フェミニズムの視点を取り入れた授業をしています。
たとえば、教科書に登場する古典の「春香伝」と、現代韓国のバラエティ番組と、慰安婦問題を、「女性のモノ化」を軸に、つなげて議論するという授業が展開されます。真面目な意見から冷笑的な意見まで、韓国の男子生徒の率直な声も紹介されます。
男子高校の生徒だったころの私が、こんな刺激的な授業を受けていたら、どう考え、どう答えただろう、そう思わずにはいられませんでした。
一人前の男になれない(就職や結婚ができない)という不安を抱える生徒たちに、すでに享受している男性の特権を自覚させ、家父長制の問題に目を向けさせるのは簡単ではありません。教師としての心がけ、男子生徒とのコミュニケーションも、読みどころの一つです。
このように、本書は他者に学び、他者と対話する、そんな姿勢に貫かれています。著者の生き方はもちろん、母の苦しみ、若い男性の経験、韓国の女性の経験など、それぞれの立ち位置からも、考えさせられる本です。
巻末には、読書案内もあり、近年韓国で話題になった31冊の本が紹介されます。
さらに、上野千鶴子さんによる、日韓のジェンダー事情に触れた解説もあります。この内容は「ちづこのブログ」でお読みいただけます!
韓国各紙で話題になり、「幸せな朝の読書推薦図書」や「今年の青少年教養図書」にも選定された「本格男フェミ入門書」。是非お手に取ってみてください。
(世界思想社 東知史)
【目次】
プロローグ――男がフェミニストだって?
1章 母と息子
2章 フェミニズムを学ぶ男
3章 先生、もしかして週末に江南駅に行ってきたんですか?
4章 八〇〇人の男子生徒とともに
5章 ヘイトと戦う方法
エピローグ――共に地獄を生き抜くために
読書案内――男フェミのためのカリキュラム
解説 『82年生まれ、キム・ジヨン』の夫、それとも息子?――上野千鶴子
訳者あとがき
◆書誌データ
書名 :私は男でフェミニストです
著者名:チェ・スンボム
訳者名:金 みんじょん
頁数 :196頁
出版社:世界思想社
刊行日:2021/11/19
定価 :1870円(税込)