岡田さんは、会社を辞めて旅行業を学ぶために旅行会社に転職する決意をする。その前に、1か月のフランスへのプライベートな一人旅を楽しんだ。結婚して2か月の頃。夫は大学時代の同級生。現在は会計士で、岡田さんの会社のアドバイスもしている。今、二人の間にはお子さんが2人いる。4人家族だ。。


「1か月かけてフランス中のワイナリーを巡った。そのとき、一人なので食事もあまり出かけられないので、シャンブル・ドット(Chambre d'hote オーナーのいる1棟貸し) とか、ワイナリーが備えているB&Bとかに泊まっていた。あとはAirbnb(エーアンドビー=オンラインの民宿)とか使っていた。2015年のころです。
 その頃、どうやって宿を探していったのか、今ではほとんど覚えていない(笑)。ただ、シャンブル・ドットという言葉だけはみつけていたので、行きたい地方の、たとえばボルドー地域に行きたいとなれば、ボルドーのシャンブル・ドットとGoogleにいれてみて、マップに表示される宿をひとつひとつホームページで見て受け入れているか、フェイスブックで稼働しているかとかをみて、コンタクトとって、泊まれるか、駅まで迎えにきてもらえるか訊いて、近くまでの交通手段も訊く。それを何十軒もやった感じです。それがシャンブル・ドットのツーリズムにはまるきっかけでした。運転免許はもっているんですが、一人で運転は怖くて。迎えにきてもらうことにしていた」

 フランスはインバウンドで世界トップ。1棟貸しで泊まれるシャンブル・ドットのスタイルが4万7000軒もあり、泊まれるワイナリー、泊まれる農家が2万軒近くある。現地に行き、ワイナリーやチーズ工房を訪ね、地方のレストランで食事を楽しむという旅行スタイルが定着している。岡田さんは、フランスで一人旅を楽しみ、これまでプライベートで手掛けた旅を形にするべく旅行会社へ転職をした。

「前の会社をやめて旅行会社に入って給料が半分になった。それは覚悟の上だったけど、一番驚いたのは、旅行業界自体へ抱いていたイメージと全然違っていたこと(笑)。入社した旅行会社はメインで国内のオーダーメイドの旅行を取り扱っていた。例えば製薬会社さんが、大型バスを貸し切って滋賀へというような団体慰安旅行というものです。海外向けの個人オーダーメイドの旅も取り扱っていて、それを広げてほしいということで入れていただいたんです。
 でも驚くことに、だれも現地を知らない。私には、こういう旅行を提供したいという目指すスタイルがあった。それを手配しようと思ったときに、旅行会社の担当者が現地を知らないから、現地の日本人エージェントを通さないといけない。ホテルをとるにしても、現地のエージェントさんがもっているものから選ばないといけない。もちろんアグリツーリズモ(イタリアの農家で泊まる観光)や地元の食堂なんか手配先としてもってないじゃないですか。だから思うようなおもしろい旅が作れない」

フランスでで農家さんを訪問

イタリア・ピエモンテ州のワイナリーホテルで泊まっったときの葡萄


 岡田さんは、プライベートではダイレクトに宿泊施設や個人のレストラン、ワイナリーなどに直接連絡を入れて旅を作りあげていた。ところが会社で同じことをやろうとすると、会社関係のエージェント経由で依頼をしなければならない。そのルートがないと、新たな手配が必要で、そのマージンが派生する。オーダーメイドの旅は、結果的に高くつくことになってしまった。

「私が目指す旅行って お客様がお金をかけたい部分とかけたくない部分っていうのをそれぞれ持ってらっしゃる。飛行機はビジネスクラスじゃなくていいけど最後のホテルは豪華なところに泊まりたいとか。いっぱいおいしいものが食べたいからホテルは普通の安いところで済ませたいとか。お金を掛けるところ、かけたくないものをきちんととらえて旅を手配する。だから私が作る旅ってそんなに高くならないんです。でもエージェント経由となると、手数料がやたらと上乗せされて同じ内容でもかなり高くなる。今まで頼んでくれた友人が、会社でもいいからうけてほしいって言われたときに私は受けられなかった」

◆女性起業を支援するLED関西で独立の基礎が生まれる
 結局、旅行会社は一年弱で辞めることとなる。自分の作る会社を考え名刺、ホームページの構想もした形での退社だった。しかしこれから具体的にどうしらいいか悩んでもいた。そんなときに出会ったのが、公益財団法人大阪産業局、近畿経済産業局関西と企業や銀行などが、関西エリア(2府5県)の女性の起業を支援する「LED関西/女性起業家応援プロジェクト」だった。https://ledkansai.jp/

「梅田にTSUTAYAと関西大学が一緒に共同経営している“スタートアップカフェ大阪“という施設があってそこの立ち上げに親友が関わっていた。相談しに行ってみたらって言ってもらった。起業支援の相談員さんが常駐されていらした。旅行会社を立ち上げるとすればコンセプト、マネジメント、プロモーションをどうするのかとかすごく親身に相談にのってもらえた。相談は無料だったんです。
 その上が起業された方のオフィスで、どこがシェアオフィスとして使える仕組みもあった。LED関西を立ち上げたプロデューサーもいらした。私が会社を立ち上げるってなった時に『ビジネスプランコンテストがある。応募してみたら』って言われて じゃあやってみようかなーと思ったのがきっかけ」

 2017年6月にオーダーメイドの旅行業“Table a Cloth(テーブル・ア・クロス)” を個人事業として立ち上げ2017年の10月にコンテストに応募。2018年の1月にLED関西の最終審査があり、岡田さんは300名近くの応募から最終審査のファイナリスト12名に選ばれた。最終プレゼンは5分。PowerPointを使い目指す事業を、審査をする約500名の企業関係の人たちの前でプレゼンテーションをするというもの。

「LED関西のコンテストは優劣をつけるのではなく企業の方が前に座ってらっしゃってこの人と一緒に何かをしたい企業とか支援したいから手をあげるっていう方式なんです。事務局の審査があり、そこに選ばれてプレゼンテーションとなる。そのときに『gochi荘』で形になった『おいしい旅というコンセプトそのままに、だれでも幅広く楽しんでもらえる国内旅も展開したい』という話をしました。そしたら20社くらい、阪神電鉄さん、阪急電鉄さん、関西テレビさん他、いろんな銀行さんなど名だたる企業さんが手をあげてくださった。プレゼンテーションは、めちゃくちゃ練習しました(笑)。コンテストの2週間前くらいからは歩きながら原稿をつぶやいていました。LED関西のファイナリスト同士で集まって練習したりもしました。 コメントをもらって、内容をブラッシュアップしたり、話し方・伝え方とかも教えていただいた。相当鍛えられました」

 岡田さんは、コンテストでサポートを約束してくださった企業の方たちに実際に会い「 『gochi荘』の構想を話した。
「各地方のユニークな農家民宿・宿泊施設さん、レストランと繋がって、それを紹介するサイトが作りたい。今の日本には、自分が泊まりたい・食べたいと思うようなローカルな情報を探せるツールがないんです。 私がフランスでシャンブル・ドットを調べた時のように。イタリアでアグリツーリズモを探す時のように。日本の農村部のまだ見ぬ魅力を発信できるサイトを作りたいと。
 ただ、当時は旅行会社に勤めているただの主婦だった。仮に農家民宿を見つけて、“一緒に宿泊予約サイトを作りましょう”と訪ねていっても、断られるのは目に見えている。何もないものを一から作りたい。そのサポートしてほしいという話を全部の企業さんに持って行った。そしたら例えば京都信用金庫さんが京都の観光に従事する企業や各地域の観光事業者さんとつないでくださったり、各会社がそれぞれに持っている地域ネットワークやコネクションを駆使して有益な場所へつないで下さった。インターネットのシステムを作る会社さんはサイトのサポートもしてくださった。officeを貸してくださった企業さんもいらっしゃいます。みなさんのサポートが私にとって1番の賞だったんです」

「gochi荘」のホームページの紹介写真。料理は北海道多田農園のスープ

 こうして新しい旅の会社が誕生する。旅行業登録に600万円が必要だった。岡田さんが作りたいオーダーメイドの旅行は、旅行業第3種に当たる。第3種を取得しないと旅行業を営むことができない。供託金300万円を預けないといけない。その上で手元に300万円を資金として残してその証拠も提出する。利用者に何かあった時にすぐにカバーできることを示すためだ。お金はフェリシモ時代に貯金していたものだった。
 こうして旅行会社が立ち上がる。フェリシモ時代に培った、カタログをつくったり、撮影をしたり、というスキルが役にたった。当時出会ったデザイナーや関係の方々に頼んで、ホームページを立ち上げた。費用は約50~60万円ほどだった。

古民家ゲストハウスやまぼうし京都・丹波篠山)

丹波篠山の栗


 現在の仕事のパートナーである松下裕美さんは、フェリシモ時代にアシスタントとして、岡田さんが立ち上げた事業のweb制作や製品検品など広く担当してくれていた方。旅とワインが好き。そんなことから一緒に仕事を始めることとなった。

◆コロナで海外旅行は打撃を受けたが、大切なのは今後の準備
 コロナの影響は大きなものがあった。海外の旅行は大ダメージを受けた。しかし「gochi荘」では、必ずしもそうではない。密でない、環境がいい、人混みがない。そんなことから国内旅行に使われるケースはかなりあった。

「旅行業なのでコロナの影響で大打撃をうけていますが、実は伸びているところもある。農村の旅の需要自体は高まっている。みんなお忍びみたいになっている。SNSにもあげない。拡散もしてもらえない。これまでだったら、こんなところに来て、こんなもの食べましたってみんなSNSで発信していた。それがパタッとやめちゃった。旅行を内緒にしている。自分でエージェントを通さずに予約をして、いつでもキャンセルできるようにしているとか、ちょっと旅行に後ろめたさをまだ感じるところがありますね。その我慢ももう少しだと思います。私たちがやっていることは、お客さんが戻ってきたときにいかにこの旅行会社に頼みたいと思ってもらえるかという宿を作り続けること。この逆行のなかでもいかに楽しく、明るく商品を作り続けられるかということに気を使っているところです。政府が旅行に行っていいんですよと公に言ってくれれば、大きくかわると思います」


株式会社Table a Cloth  http://tableacloth.com/
『gochi荘(ゴチソウ)』  https://gochisouoyado.com/






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Note: Table a Cloth Travel|note
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