DV問題は、いまや大きな社会問題のひとつとして知られるようになっている。
ただ、DVへの理解はまだ十分とは言えず、被害者が加害者のもとから離れることができれば一件落着、と思っている人は多いのではないだろうか。
面前DV被害者(夫婦間暴力を目撃しながら育った子ども)である私が、離婚した母と2人暮らしを始めたときも、「これからは、母娘で心穏やかな生活ができる」と思った。
しかし、現実は全然違った。
母はPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ、元夫に追われる悪夢、うつ、不眠症、被害妄想、頭痛、耳鳴りなど心身の不調に悩まされた。
実は、DVに直面しているときには我慢することが習慣化されているために、トラウマの症状は出にくい。そして、DVから逃れた後に皺寄せが一気に出てくるようになるのだ。
また、DV家庭で刷り込まれた歪んだ認知(ものごとや人に対する見方や考え方のこと)によって、母も子どもも人間関係に支障が生じるなど生きづらさを抱えやすくもなる。
本書では、さまざまな後遺症に苦しむDV被害者、面前DV被害者に体験談を語ってもらうとともに、専門家や支援団体の声も聞き、後遺症の実態に切り込んでいる。
ネット上では、多くのDV被害者、面前DV被害者が後遺症の苦しみを吐露している。しかし、匿名性の中でしか語れず、その悲痛な声は埋もれたままだ。
DV後遺症の実態をぜひ多くの人に知ってもらいたい。私はそのような思いを込めて、この本を書き上げた。
【目次】
第1章 父の暴言・暴力におびえる母娘
第2章 離婚後に壊れていった母
第3章 男性が怖い――暴力のダメージで男性恐怖症に
第4章 親子関係がきしむ――母子にあらわれる心身の変調
第5章 二重のトラウマ――子ども時代の虐待と夫からの暴力
第6章 元夫の支配から抜け出せない――コントロールで判断力を奪われる
第7章 子どもを苦しめつづける面前暴力――怒鳴り声でフラッシュバックする
第8章 被害者支援から見えてくるDV問題の実態
第9章 DV後遺症――脳・心・体も影響を受ける
◆書誌データ
書名 :DV後遺症に苦しむ母と子どもたちーー家族「面前」暴力の深層
著者 :林美保子
頁数 :284頁
刊行日:2022/2/4
出版社:さくら舎
定価 :1760円(税込)