2012.03.09 Fri
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 女の身体と老いについての知的エロスあふれるやりとりも刺激的な第I部から、それぞれのリブ・フェミニズム・女性学との関わりを自己形成史とからめ振り返る第II部、今後の日本社会におけるフェミニズムの有効性を問う第III部に至るまで、ここには、互いの差異をすばやく感知し、言語化し、新たな文脈に置き直し、さらに次の主題へとつなげてゆく、学知に支えられた歯切れのよい言葉の連なりがある。フェミニズムの主題による変奏曲とフーガ、とでも呼びたいような。予定調和的なシンフォニーではない。差異こそがこの鼎談を豊かなものにしているのだから。
時に女言葉による洒落っ気あふれる揶揄もあり、それが独自の面白味を添えている。関西言葉ではないにしても、三人が出会い同じ空気を吸って過ごした土地の気質といったものが影響を及ぼしているのではないか。少なくともこのように密な形で人間関係を保ち続けることができたのは、京都という場所の往来のしやすさにも起因しているのではないかと、話者/著者たちの交友をはぐくんだ土地のコミュニケーション力にまで思いをはせた。いずれにせよ、70年代後半に大学生として東京に来て以来、主に東京をベースに仕事をしてきた私の感覚からすると、当時、遠くから女性学講座などの活況ぶりを媒体経由で伝え聞いていた関西フェミのパワーが、今ここに、その主要な担い手たちによって言語的に再遂行されていることに、深い感慨を覚える。
フェミニスト世代のモテ自慢について年長者の西川祐子さんが指摘する箇所には、私が在籍していた小さな国立大学で知り合った「とんでる」先輩諸姉方(なぜかフランス科ばかりだった)にも確かにそういう風潮があった、と思い出し笑いさせられた。西川さんはそれをより洗練された言い方(「女のフェミニストもセクシュアリティ至上主義の文化がある」)とパラフレーズしているのだが。
ほかにも、「女性嫌悪が自分の中になければ、フェミニストになる理由がない」(上野)、「楽だというだけで異性愛制度にのっとっているのか、それとも、性的接触をしてもいいと思うくらいのエネルギーを引き出すのが、私の場合は異性だったのか」(荻野)などなど、こう言いたかったのだ!と膝を打つ言説見本満載。一夫一婦制の家族制度に入ったことに対する上野さんのつっこみに抗しながら、ふと「日常生活というのが好きなんじゃないかな」とつぶやく西川さんの言辞には共感させられた。西川さんにはぜひ小倉千加子氏の言を気にせず、「結婚しているフェミニスト」と自称していただきたい。
影響を受けた先行の女性の書き物について直截に感想を述べ合うくだりも、興味深い。中でも、森崎和江の著作について自身の言葉遣いとからめて語る箇所が私には参考になった。女性史世代(西川)と女性学世代(荻野、上野)の間に存在していたらしき、眼に見えない分断も、三人の語りから浮かび上がる。こうした微妙な違いは、かつてそこに属した者同士が、時を経て「共に振り返る」ことで初めて、後世に利用可能な言説となるのだ。シスターフッドの大事さを痛感させられる。
数年ごとに行われた鼎談をまとめたものだけれど、常に清冽な活気がみなぎっているのも、若い頃からの交流の賜物と推察する。本としてまとめられる際にはつきものの加筆修正はあるにしても、話し言葉で紡がれたテクストならではのリズムは消えていない。過去から現在に至るまで続くそれぞれのスタンスの違い(たとえば異性愛者としてのそれ)も、鮮やかに言葉で象られ、互いの位置づけあいにもドキリとさせられる。けれどそれが不快ではない。むしろ、こんな風に、話し言葉で、互いの差異と変容について語ることができる場があれば、どんなにか生きやすくなるだろうと、一種の言語的ユートピアを見出す思い。フェミニズムというのは、結局のところ、自己をも他者をも抑圧することなく語る言葉を獲得することではないか――60年代以後、さまざまな生の現場から絞り出され、紡がれてきた女たちの言葉がかくも精錬され、今、読者の前に差し出されているのだ。これを言語的資源として、よりよく生きるための闘いのツールに活用しない手はない(川口恵子)。
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