2012.04.29 Sun
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. フランスの女優サンドリーヌ・ボネールといえば、わたしがすぐ思い浮かべるのはアニエス・ヴァルダ監督の『さすらう女』(1985年)(*わたしが観たときの邦題は『冬の旅』)だ。最後には側溝で野垂れ死にする浮浪者を演ずるボネール(彼女はこの時17歳か18歳)の存在感は圧倒的だった。
『彼女の名はサビーヌ』(2007年)は、そのボネールが、一つ違いの自閉症の妹サビーヌを撮ったドキュメンタリー映画である。サビーヌは現在、フランスのアングレーム近郊の保護施設(その施設の実現にはボネール自身も尽力している)で暮らしている。ボネールは、自閉症者、とりわけ成人の自閉症者のケアの現状について、公の機関に訴えることがこの映画の制作の第一の目的だったと語っている。もともと周囲からの配慮を必要としたが、家族に囲まれ、積極的に生活を楽しんでいたサビーヌの状態は、20代の後半から5年間精神科病院に入院していた間に、みるみる悪化していった。
映画では過去のサビーヌと現在の彼女が交互に映し出される。家族を撮ったプライヴェートフィルムに映し出されるかつてのサビーヌは、髪の長い美しい若い女性である。憧れのアメリカに向かう機上で茶目っ気のある眼差しをレンズに向け、8mmカメラで撮影する姉サンドリーヌに興奮した様子で語りかける。彼女は海で元気に走り回り、家族と滝を目指してごつごつした岩の間を半ズボン姿で登っていく。一方保護施設で暮らす現在(映画は2007年公開)のサビーヌからは、彼女が持っていたさまざまな身体的および知的能力が失われ、以前より多くの人の助けを必要とする様子が見て取れる。
けれどボネールの言うように、『彼女の名はサビーヌ』は自閉症についての映画ではない。文字通りサビーヌの物語であり、サンドリーヌの物語でもある。映画にはかつてのサビーヌを収めた映像を現在のサビーヌに見せる場面がある。それは一見とても残酷だ。昔の自分を見てサビーヌは声をあげて泣く。つらいならやめるという姉に、サビーヌはうれしくて泣いているのだ、と答え、自分の姿を見つづける。
サビーヌはいつだって姉のサンドリーヌにフィルムに収められるのが好きだった。それは現在でも変わらない。撮影が終わった後、姉が妹にこの映画のことを尋ねると、サビーヌは仕事だと思っている、と答えたそうだ。サンドリーヌは自分が役に立ったと感じている。(lita)