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塚原久美 『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ:フェミニスト倫理の視点から』

2014.05.28 Wed

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.2009年の博士論文を元に,10年余に渡る学際的な中絶問題研究の成果をまとめた初の単著です。

「はしがき」の冒頭を引用します。

1971年10月23日,アメリカのウィスコンシン州マジソンで開かれた「医院と診療所の中絶手法に関するシンポジウム」の閉幕で,早期中絶における拡大掻爬術の支配はついに終わりを告げた。シンポジウム参加者たちが拡大掻爬術の代わりに「標準」として採用したのは,カーマン式カニューレを用いた真空吸引だった。ほどなく,世界中に「妊娠初期の中絶は吸引で行う」という常識が広まった。

タンファー・タンクの中絶技術史の研究書『選択のテクノロジー――1850~1980年アメリカにおける中絶手法の歴史』で,上記の事実を知った時,私のなかで,それまで断片的に入ってきていた情報が明らかな一つの像を結んだ。日本に欠けていたものはこれだったのだ。カーマン式カニューレという小さな発明が導入されなかったことで,日本の中絶技術は世界とは別の進化の道をたどることになったのである。

一方,今も日本の初期中絶では掻爬(拡大掻爬術)と呼ばれる外科的手術が圧倒的多数であり,吸引のみで中絶を行う医師は1割程度です。しかも,日本の「吸引」はリスクの高い金属製のカニューレを用いており,カーマン式カニューレを初めとする安全なプラスチック製の管は使われていません。一方,世界では,プラスチック製カニューレを使った吸引に加えて,今や内服薬を用いる「内科的中絶」がスタンダードになっており,WHOでは「拡大掻爬術」は「廃れた」方法として,「より安全な方法に置き換えるべき」だと指導しています。

本書では,このような中絶技術の違いが日本人の「中絶観」や「胎児観」,さらには女性たちの権利意識にも影響を及ぼしている可能性を指摘しました。

従来のように中絶を罪悪視して沈黙するのではなく,世界標準に照らした日本の現状を明らかにした上で,女性の健康と権利を重視する人々と共に改善の方向性を探っていきたいと思います。一人でも多くの人々に,現代日本の中絶の「問題性」を知っていただき,議論の端緒になれば幸いです(著者)。








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