2014.12.23 Tue
ウーマン・リブとスチューデント・パワーが吹き荒れる時代に、私は学生時代を送りました。母校の東京藝大でも学長室が占拠され、主に美術学部の学生が中心となって全共闘運動が盛んだった頃です。私は音楽学部声楽科でしたが、学長室の片隅に布団を引いて3人くらいが団子になって寝た記憶があります。苦い恋愛を経験し、運動の中の理不尽な男女差別を実感する日々でもありました。
全共闘運動が敗北に終わった後、ウーマン・リブに関わる多くの女性たちと出会い、自分の感じてきた悲しみや苦しみを共有する貴重な経験をしました。後に妻となり、母となり、細々と音楽活動を続けるうち、ひょんなことから横浜市会議員に立候補することになり、1995年に初当選しました。2期8年の後、神奈川県議に挑戦するも落選、ショックで布団をかぶって寝ている時、当時横浜国立大学生だった長女が、「大学は面白いよ、授業に出て見たら」と声をかけてくれました。急に暇になった私は、さっそくドイツ人の先生による「イスラム文明史」という授業にもぐりました。9.11の翌々年で、イスラムの理解なしに世界を理解することはできないと思ったからです。あまりに面白く、翌年私は正式に大学院に入学しました。
それから卒業までの8年半の間には、計3年のフランス留学を経験するやら、この歳にしては大変な冒険の数々の末、2012年に学術博士号を取得しました。本書はこの博士論文をもとに加筆・修正したものです。
私は長年貧困や戦争、暴力や女性差別について考えてきましたが、現代の基礎を形作ったヨーロッパの近代が生まれ出た源流に触れることで、現代社会に累積する問題についてより深い理解が得られるのではないかと思うようになりました。まさにオペラは近代とともに誕生した新興芸術であり、近代の特色を色濃く持った芸術です。物語に見られる女性への憧れのまなざしと、殺人、自殺、レイプなどの暴力は、近代ヨーロッパのメンタリティに底流する「ミソジニー」(女性蔑視)が表と裏にあらわれたものではないかと考えました。
本書はルイ14世時代に作られたギリシャ神話の女メデイアについての、四つのオペラ台本を分析したものです。16世紀から17世紀にかけて、メデイアはオペラや戯曲作品に何度も登場しました。時あたかも絶対王政の時代、厳しい身分制社会であり、家父長制社会でもあったこの時代に、夫に裏切られたメデイアは夫の恋人、その父王、夫との間に生まれた二人の息子を殺害し、復讐した魔女です。なぜこのような時代に、王の権力や夫に刃向い、反逆したメデイアの物語が何度も舞台化されたのでしょうか。分析を通じ、近代ヨーロッパに特徴的なミソジニーの本質を検証し、この本が生まれることになりました。[著者 梅野りんこ]
・なお、書籍については、以下にお問い合わせください。
『オペラのメデイアー近代ヨーロッパのミソジニーー』
2014年11月10日出版
出版社 水声社 電話 03-5689-8410
著者 梅野りんこ rinrinarinrin@hotmail.com に直接お問い合わせいただいても結構です。
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