2013.02.03 Sun
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
◆テーマ・その1:遺言書で大切な「者」を守る
第5回 事実婚(同性パートナーを含む)子なしの場合の遺言書
●まず、相続の大原則はどうなっているかを知ろう
このシリーズも5回目となり、いよいよ実際の遺言書のケーススタディに入っていきます。
まず、ケーススタディの1回目として、遺言書がなかった場合に、法律ではどうやって遺産を分けることになっているのか、誰か遺産を相続するのか、といった基本についてご説明しておきましょう。
図は全てAさんから見た関係図です。
【大原則(1)─ 図(1)】
Aさんにはご存命のご両親、きょうだいが1人、配偶者、子が2人います。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、以下の大原則(1)が適用されます。
大原則(1)
配偶者:1/2
子 :1/2(子の数で当分)
したがって、図(1)の例ですと、以下となります。
配偶者 遺産の1/2 600万円
子1 遺産の1/4 300万円
子2 遺産の1/4 300万円
【大原則(2)─ 図(2)】
Aさんにはご存命のご両親、きょうだいが1人、配偶者がいます。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、以下の大原則(2)が適用されます。
大原則(2)
配偶者:2/3
親 :1/3(親の数で当分)
したがって、図(2)の例ですと、法定相続人とそれぞれが受け取る遺産は、以下となります。
配偶者 遺産の2/3 800万円
親1 遺産の1/3 200万円
親2 遺産の1/3 200万円
【大原則(3)─ 図(3)】
Aさんには、きょうだいが1人、配偶者がいます。
Aさんが1,200万円を遺して亡くなった場合、法定遺産相続人と受け取る遺産の割合は、以下の大原則(3)が適用されます。
大原則(3)
配偶者 :3/4
きょうだい:1/4(きょうだいの数で当分)
したがって、図(3)の例ですと、法定相続人とそれぞれが受け取る遺産は、以下となります。
配偶者 遺産の3/4 900万円
きょうだい 遺産の1/4 300万円
案外、きょうだいに渡る財産が多いな、ということに気づくと思います。子のいないカップルでは、このパターンで揉めることが多いようです。
●子なし・両親ときょうだいがいる場合
それでは、実際に法律婚ではない事実婚のカップルについて、ケーススタディを見ていくことにしましょう。今回は、子どもがいない場合を例にして、2パターン考えてみます。
※このケーススタディでの「事実婚」とは異性のパートナー及び同性のパートナーのどちらも想定しています。
【ケーススタディ(1)─ 子なし・両親ときょうだいがいる場合】
まだ年齢が若いカップルでありそうなのが、ご両親がご存命というこのパターンですね。
あなたには、ご存命のご両親、きょうだいが1人、事実婚のパートナーがいます。
あなたは、自分に万が一のことがあったときには、できればパートナーに全ての財産を残したいと考えています。
どういった内容の遺言書を作成しておけばいいでしょうか。
(1)法定相続人は誰か
この場合、関係性でいえば上記の「図(2)」と同様なので、大原則(2)にしたがって、パートナーとご両親が法定相続人になりそうですが、事実婚のパートナーは法律上の配偶者ではないので、全くの他人ということになり、法定相続人はご両親だけとなります。
このため、遺言書がない場合は、ご両親があなたの全遺産を相続することになります。
(2)法定遺留分権利者は誰か
「法定遺留分権利者」とは、前回の「第4回 パートナーに全財産は残せない? 遺留分ってなんだろう?」でご紹介したように、「何があっても遺産から受け取ることのできる取り分」を持っている人のことです。そして、この取り分を「法定遺留分」といいます。
このケースの法定遺留分権利者は、やはりご両親となります。ご両親の遺留分は、遺産総額の1/3ですから、400万円となります。
(3)実際の遺言書にはどう書けばいい?
遺言書に必ず記載する必要があるのは、「パートナーに全財産を遺贈すること」。「遺言執行者にパートナーや信頼できる第三者を指定しておくこと」。そして、付言事項で「両親には遺留分の請求をしないで欲しいという旨の依頼をすること」となります。
※「遺言執行者」については、また別の回でご説明いたします。


●子なし・きょうだいがいる場合
【ケーススタディ(2)─ 子なし・きょうだいがいる場合】
中年以降のカップルでありそうなのが、ご両親はお亡くなりになっており、ごきょうだいがご存命というこちらのパターンです。
あなたには、ご存命のきょうだいが1人、事実婚のパートナーがいます。
あなたは、自分に万が一のことがあったときには、できればパートナーに全ての財産を残したいと考えています。
どういった内容の遺言書を作成しておけばいいでしょうか。
(1)法定相続人は誰か
この場合、関係性でいえば上記の「図(3)」と同様なので、大原則(3)にしたがって、パートナーときょうだいが法定相続人になりそうですが、事実婚のパートナーは法律上の配偶者ではないので、全くの他人ということになり、法定相続人はきょうだいだけとなります。
このため、遺言書がない場合は、きょうだいがあなたの全遺産を相続することになります。
(2)法定遺留分権利者は誰か
このケースの場合、きょうだいに法定遺留分はありませんので、法定遺留分権利者はいないことになります。
(3)実際の遺言書にはどう書けばいい?
遺言書に必ず記載する必要があるのは、「パートナーに全財産を遺贈すること」、「遺言執行者にパートナーや信頼できる第三者を指定しておくこと」。そして、付言事項で「ごきょうだいによく事情を理解してもらうように依頼すること」が重要です。
本来、あなたのパートナーがいなければ、あなたの全財産を相続するのはごきょうだいです。それを全てあなたのパートナーに持っていかれる上に、遺留分も請求できないのですから、それが面白くないごきょうだいもいらっしゃるでしょう。常日頃から、ごきょうだいには事情を話し、理解を得ておくことが不可欠となります。

●遺言書に関する注意事項
上記に2つの遺言書の例を挙げましたが、これまでの回でご説明したように、遺言書には大きく分けて3種類(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)があり、それぞれに要件が違っています。その要件を満たさないと、せっかく遺言書を作成しても無効となってしまいますので、充分に注意してください。
また、上記の例は、パートナーに全財産を遺す内容になっていますが、実際は、後から揉めごとが起こらないように、できるだけ遺留分権利者の遺留分を侵害しないような内容にすることが多いようです。パートナーにできるだけ多くの財産を遺すには、法定相続人や遺留分権利者との日頃からの付き合いや理解が重要になってきます。
それでは、今回はここまで。次回は、事実婚のパートナーに子がいる場合の遺言書を考えてみます。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
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