大田美和の初めての詩集である『大田美和詩集二〇〇四―二〇二一』北冬舎 が出版されました。大田美和は歌集『きらい』(河出書房新社)、歌集『水の乳房』(北冬舎)、歌集『飛ぶ練習』(同)、歌集『葡萄の香り、噴水の匂い』(同)を出版している歌人で、その短歌は、見田宗介『社会学入門 人間の社会と未来』(岩波新書)や、北村薫『北村薫のうた合わせ百人一首』(新潮文庫)に多数取り上げられています。

今回の詩集には、複数の多様な、異なる「私」の声や語り手が登場します。その中には、亡霊や生霊のように、異界から訪れた者、異界に行ってしまった者、現世と異界の間を行き交う者も交じっているようで、謎に満ちています。たとえば、連れ立って一緒に帰るという呼びかけや状況は、3つの異なる背景を持つ詩に登場し、共にあることへの切実な願いと困難さをそれぞれに表出します。

短歌というジャンルで相聞歌を得意としてきた作者の、この詩集のキーワードも、「愛」であるようです。しかし、その愛は、結婚と家族の形成をゴールとする規範的な異性愛だけではなく、様々な親密な形を表現しているようです。会うことがかなわない相手、会ってはいけない相手、もう二度と会えない相手、出会いそこなった相手に対する訴えとしてのうた、呼びかけとしての相聞が、現代詩集であるこの詩集にも存在しています。また、地震と津波と原発過酷事故の複合災害や、新型コロナウイルスのパンデミックを暗示するフレーズや設定も、複数の詩にそれぞれ異なる形で潜んでいます。

基本的に非定型の自由詩から成る詩集ですが、エピグラフとして短歌が置かれていたり、長歌としての詩に対する反歌として短歌が置かれていたり、七五調の韻律で書かれた詩があったり、ある部分だけ五七調や七五調になっている詩があったりします。現代日本語の散文のリズムの中に韻律がどのような形で溶け込み、出現するのか、掛け言葉や頭韻などの言葉遊びと調べやリズムをお楽しみ下さい。

若い世代の間ではジャンルの越境が進んではいますが、この詩に表れた現代日本語の韻律の自在さは、短歌創作の出発において、新聞の読者投稿欄で全国の愛読者に愛唱された短歌を作っていた作者ならではのものがあります。

タイトルは、一見、単独詩集のタイトルのように見えませんが、第一詩集をこのようなタイトルで出版した詩人には、北村太郎がいます。

帯文には、一篇の詩が紹介されています。

   樹になろう

 生まれ変わったら
 樹になろう
 樹が目覚めるのは
 夜中だけ
 轟轟と音とどろかせ
 団太団太と足踏み鳴らし
 行き暮れた
 旅人だけを驚かす

歌人が、いま現代詩の詩集を初めて世に問うのはなぜか? ぜひお読みください。

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◆書誌データ
書名 :『大田美和詩集二〇〇四―二〇二一』
著者名:大田美和
刊行年:2022年
定価 :本体2,400円+税
コード:ISBN 9784903792804
出版社:北冬舎