
「医学部入試における女性差別対策弁護団」のリレーエッセイ。34回目の今回は、弁護団事務局の櫻町直樹が担当します。
1 学校法人東京医科大学に対する訴訟について(控訴の申立て)
前回のエッセイでお伝えしておりましたように、令和4(2022)年9月26日、学校法人東京医科大学に対する損害賠償請求訴訟で判決の言渡しを受けた原告28名のうち、半数を超える16名が控訴を申し立てました(請求総額:1億1344万7213円)。
11月16日には、詳細な控訴理由を記載した「控訴理由書」を提出しました。
控訴理由書における主張は多岐にわたりますが、柱となるのは、①「本件属性調整自体が女性を差別するものとして不法行為と認めるべきであること」、②「一審判決が認めた受験慰謝料・不合格慰謝料は低過ぎること」、③「大学納付金差額、逸失利益(医師としての賃金相当額1年分)、及び予備校費用も損害と認めるべきであること」の三点です。
まず、①「本件属性調整自体が女性を差別するものとして不法行為と認めるべきであること」について、一審判決は「本件属性調整を行っていることを公表することなく、原告らに本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試を受験させたこと」が不法行為であるとしましたが、この理屈を突きつめれば「事前に公表していれば(=受験生が本件属性調整を認識していれば)問題ない」となりかねません。
しかしながら、このような帰結が不当であることは明らかです。「女子受験生につき性別を理由として男子受験生と得点に差をつけること」が正当化される余地はなく、たとえ事前に公表されていたとしても、そのような女性差別を前提とした入学試験が「公正かつ妥当な方法」(大学設置基準2条の2)による入学者選抜であると評価できるものではありません。
次に、②「受験慰謝料・不合格慰謝料は低過ぎること」について、入学試験は公平・公正に実施されるべきであり、受験生は、自分が受ける入学試験の公平さ・公正さを疑うべくもないでしょう。
しかしながら、多数の医学部・医科大学は、受験生のこのような信頼を「裏切った」訳です。「女性である」ことを理由に不利益に扱われることが予定された入学試験を、そうと知らずに受けさせる理不尽さは、「受験校選択の機会を喪失させた」というにとどまらず、医師になるという夢を叶えるために一生懸命勉強に励んできた女子受験生の人格を否定するに等しいというべきです。
さらに、二次試験に進んだ受験生にとっては、実際に得点を改ざんされたものであり、直接的な被害を受けているものです。まして、その改ざんによって(本来なら合格であったのに)不当に不合格とされたことの精神的苦痛は、余人の想像を絶するものといえるでしょう。
こうした精神的苦痛の大きさを考えたとき、一審判決が認めた受験慰謝料・不合格慰謝料の額は、低過ぎると言わざるを得ません。
最後の③「大学納付金差額、逸失利益(医師としての賃金相当額1年分)、及び予備校費用も損害と認めるべきであること」について、一審判決は、本件属性調整が行われていることを認識していれば、東京医科大学の入学試験を受験することはなかったのであるから、東京医科大学へ入学することを前提とするこれらの損害が生じたとは認められないと判断しました。
一審判決は、不法行為がなかった状態について、「本件属性調整が公表された上での入学試験実施」と仮定したものと考えられますが、(一審判決の理屈を前提としても)本件属性調整は「性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法 4 条 1 項及び憲法 14 条1 項の趣旨に反する」ものですから、それをそのままにした入学試験はあり得えないというべきです。
本件属性調整がなければ合格していた場合、不合格とされたことによって必要になった支出、あるいは失われた利益が「損害」にあたることは明らかであり、大学納付金差額、逸失利益(医師としての賃金相当額1年分)、及び予備校費用は、まさに損害にあたるというべきです。
控訴審において、これらが正しく判断されるよう、弁護団として主張立証に努めたいと考えています。控訴審第1回口頭弁論期日は、令和5(2023)年1月24日午前10時35分から、東京高等裁判所717号法廷において実施予定です。
2 学校法人聖マリアンナ医科大学に対する訴訟について(一審係属中)
令和2(2020年)10月に提起された学校法人聖マリアンナ医科大学(以下「聖マリアンナ」といいます)に対する訴訟については、現在、東京地方裁判所で一審が係属しており、審理が続いています。
聖マリアンナは、平成27年度から平成30年度までの入学試験につき調査した第三者委員会が「性別・現浪区分という属性による一律の差別的取扱いが行われたものと認めざるを得ない」と報告しているにもかかわらず、訴訟当初から、入学試験において差別的取扱いをしたこと自体を否定しており、現在でも基本的にその姿勢は変わっていません。
ただし、弁護団の求めに応じて、「属性による一律の差別的取扱い」は否定しつつも、それがなかったと仮定した場合の成績順位表を作成するなど、協力的な姿勢もみられるところです。
訴訟はこれから終盤に差し掛かっていくところですが、聖マリアンナの入学試験において、属性による差別的取扱いが行われてきたこと、それによって原告らに被害が生じたことを裁判官に認定してもらうべく、今後も主張立証に努める所存です。
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