本書では、ドイツ・ヴィルヘルム時代(1890~1914年)に、政治家、教会関係者、社会改良家、大学教員などの専門家、女性運動家といった主に市民層の人たちが展開した、性道徳をめぐる議論、とりわけ女性労働、結婚や子育て、自由恋愛や自由婚(事実婚)、出生率や乳児死亡率、産児制限(避妊・堕胎)、売買春や性病などに関する議論を取りあげ、近代における政治社会と性の関係性について考察する。

具体的には、性に関する事柄が市民社会で定着していた伝統的・市民的な性道徳にもとづき社会問題化され、法律・政策・制度あるいは(風紀)警察、同じく市民層の人たちにより、個人の性が監視・管理・規定されたこと、その一方で、性道徳改革により個人の性を解放することの重要性を説く新しい性道徳が社会で広がりはじめ、個人が市民的性道徳に同調または抵抗することにより、個人が保護対象として社会に組み込まれる、あるいは保護対象から外れ社会から排除されるプロセスを明らかにしていく。

ヴィルヘルム時代の新しい性道徳をめぐる議論を歴史的に振り返ることは、ドイツのみならず日本においていまだ解決に至らない事実婚・売買春・妊娠中絶・性暴力といった問題がはらむ根本的な問題点やその解決策を考えるうえでも、一つの有力な手掛かりとなるのではないだろうか。

◆書誌データ
書名 :近代ドイツ史にみるセクシュアリティと政治-性道徳をめぐる葛藤と挑戦
著者 :水戸部由枝
頁数 :472頁
刊行日: 2022/12/16
出版社:昭和堂
定価 :6,380円(税込)

近代ドイツ史にみるセクシュアリティと政治 (明治大学社会科学研究所叢書)

著者:水戸部 由枝

昭和堂( 2022/12/16 )