パクチーを専門に栽培し生産はもちろん加工販売も手掛けているのは、千葉県八千代市大和田新田で農業を営む立川あゆみさん。「パクチーシスターズ/PAKUCI SISTERS」の名前で販売をしている。
 名前の由来は、「パクチーの姉妹がたくさんいる」という意味。実際に、栽培をするだけでなく、飲食店への直販、ペーストやカレー、餃子など、さまざまな加工品製造販売、オリジナル自動販売機、パクチーの専門直売所など、パクチーの魅力とあらゆる可能性を打ち出している。
 またイベントへの出店なども行い、いまでは多くのファンをもっている。

パクチーの畑に立つ立川あゆみさん

オリジナルパクチー自販機を設置して購入の幅と魅力をさらに打ち出す

 立川あゆみさんの「パクチーシスターズ/PAKUCI SISTERS」のパクチーの直売所と自動販売があるのは千葉県八千代市大和田新田885-14。東葉高速鉄道「八千代緑が丘駅」から徒歩15分のところにある。東京駅からだと西船橋を経由して東葉高速鉄道・八千代線緑が丘駅まで約1時間2分だ。事務所のすぐ前が直売所でその横の自動販売機は白と濃い緑。大きな立川さんの似顔絵がありひときわ目立つ。

緑と白の販売所と自販機

周辺の風景

「パクチー・ペーストの加工から通販・発送までひとりでやっています。事務だけは妹に頼んでます。
 直売所や自動販売機での販売を始めたのはコロナの影響があります。それまで飲食店にパクチーを直接収めていましたが、コロナで飲食店が休業してしまい、畑のパクチーを処分しないといけない事態となった。飲食店だけではリスクが高いとの判断からまず直売所を始めました。
 店を開くのは週1回、日曜の10:00~12:00の2時間のみ。いつでも買えるのがいいか、この日しか買えないのがいいか考えましたが、基本、一人でやっているのでほかの仕事もあるし、曜日限定の方が効率がいいと考えたからです。時間を限定して、会いに行くのが楽しみで、直接私から買いたいという人をターゲットにしました。
 しかし、コロナで直売所も難しい。それで自動販売機をやろうとなった。私にとっても便利だけどお客さんにとっても便利じゃないですか。24時間、365日買える。パクチーをスーパーで見つけるの大変だけど、ここに来るとあるよねとか」

デザイナーに依頼してお客さんに伝わるように商品をデザインする

自動販売機の導入は2021年。メディアでとり上げられて売上に繋がった。直売所で買い物するのに1時間待ちということもあった。家族連れ、男性一人、友達同士、いろんな人がきて客層は広い。自販機には生のパクチーのほか、加工品のパクチー・ペースト、餃子、カレーなどもある。直売所のなかには、オリジナルでTシャツ、デザインされた紙袋が置かれて、観ているだけで面白い。

オリジナルTシャツ(左)と店内のポスター(右)

事務所の壁にも

「八千代市の観光スポットになればいいなと思っています。写真を撮りたいとか、お土産には「パクチーシスターズ」みたいに。
 いつも思うのは、自分がわくわくするかが判断基準ですね。リーフ1枚作っても、それを見て自分がわくわくしないと人に伝えられない。デザインは本当に大事です。デザイナーは4名と連系しています。それぞれの持ち味と得意分野とイメージが違うからです。幟旗、小屋のデザイン、ホームページなど、それぞれの得意なデザイナーに依頼しています。写真はもプロのカメラマンを入れている。リーフ1枚だけでお客さんに手にとってみたい、買ってみたい、観てみたいと思われるようなものにしたい」


 自動販売機の会社はネットで探したという。商品を送ってテストをしてもらい相談ながら作った。予算はデザイン料込みで150万円。費用の3分の2はコロナ対策の農林水産省の補助金をうけて、2台導入した。
 *「新型コロナウイルス感染症の影響を受ける農林漁業者・食品関連事業者への支援策」(農林水産省)     
  https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/support.html

「補助金の話は人伝手で知りました。情報がはいってくるのは人の繋がりです。農業だけでなく多方面の方と付き合いですね。いままで人の付き合いを大切にしてきました」

立川さんの両親の実家

43歳で新規就農。両親の畑の隣でパクチーに絞りスタート


 直売所の近くに農業を営む両親の家がある。74歳と70歳(2023年現在)で二人とも現役。パクチーは両親の畑の一部と近所の農家の畑を借り、両親にも手伝ってもらいながら栽培している。肥料は鶏糞を中心としたものでJAから購入。畑では除草剤などの農薬は使用しない。手作業で行っている。親に土づくりが大切で、農薬を使用しないほうがよいと教わったからだ。

畑でパクチー収穫をする立川さん

「パクチーは一つの畑で年間で3回収穫できます。種を蒔いて2か月から冬場だと3カ月で収穫ができる。種はタイからのものを購入しています。販路は、栽培した生のパクチーを直接販売している飲食店はが30店舗。住んでいる船橋市の近くの飲食店は直接配達しています。ほかは宅配。あとは自動販売機と直売所の販売です。
 今後、生産を増やしていきたいです。周りに高齢者が多く、畑に手が回らないという方もいますので、その畑を借りたい。売上は月に100万円くらいですかね」

畑から収穫したばかりのパクチー

立川あゆみさんが新規就農をしたのは43歳の時だった。パクチーを選んだのは次の4つの理由からだった。 1・それまで飲食店で働いていて、パクチー自体がそう多く出回っていないことから、高価で安定していると思ったから。
2・地域では、ネギ、ニンジン、ほうれん草などが栽培されていていて、同じ野菜栽培をしてもそれだけの多彩な栽培の技術や実績がないということ。
3・多彩な栽培となると施設や出荷の箱、道具なども揃える必要があり、費用もかかる。
4・女性が栽培するには葉物野菜がやりやすい。

「種を蒔く器械ひとつとっても、品目が増えるとそれだけ資材を揃えないといけないじゃないですか。キャベツをやるとなると、その資材も専用の段ボール箱もいる。コストもかかってくるので単品にしようと最初から考えていた。単品だと生産が落ちてしまうときがあるので、それを上手くならせるように加工品もやっているという感じですね」

「農業をやるからには、もうあと戻りできない。女性一人での農業ということもあり、負け試合にならないように、そして生活が成り立つようにと考えた。パクチーのブームの前だったこともあり栽培している人も少なかったから、パクチー単体で勝負しようと決めました。
 両親が葉物野菜を栽培しているので、アドバイスをしてもらったり、横浜にパクチー専門で栽培している人がいて、人を介して紹介してもらい、圃場を観にいきました」

意外! 一番最初のスタートは吉本興業でのお笑いだった

 立川あゆみさんは千葉県八千代市に農家の長女として1973年生まれた。高校を出て東京都渋谷区恵比寿にある「バンタンデザイン研究所」に入りデザインを学んだ。卒業後、アパレル会社に就職。その当時人気のあった、テレビ「俺たちひょうきん族」(フジテレビ1981年~1989年)に魅せられた。山田邦子が女性芸人として活躍しているの見て、女性でも、お笑いができるのだと感銘。吉本興業のオーディションを受けて合格。、吉本興業が運営していた「銀座7丁目劇場」(1994年~1999年)でデビュー。しかし1年もたたずに辞めた。アパレル会社時代の12歳上の男性と恋をして結婚、夫に専業主婦をしてほしいと言われたからだった。子どもが二人生まれた。子育てをしながら、アパレル会社時代に学んだ服飾系の技術を生かしてバック造りを始め、幼稚園に持っていくオーダーバックを受けたりしていた。個人向けに作るものだ。また花屋に通いフラワーアレジメントを習い花の教室も開いた。会場を借りてフラワー教室もしていた。
 2007年夫を心筋梗塞で亡くした。夫が亡くしたあとは、子育てをしながら飲食店で働いた。居酒屋、イタリアン、ハワイアンなど、いくつかのお店で仕事をした。そして2016年、43歳で新規就農したのだ。現在、長女は不動産会社で勤務。長男は銀行勤務。現在、長男と一緒に住んでいる。

農業のきっかけは両親の作る新鮮野菜の美味しさに目覚めたから

「飲食店をやっているとき、実家が栽培している新鮮な野菜を食べて美味しいんだなと思いました。両親がトラクターをちょうど買い替えたタイミングでしたが、この高額なトラクターを使ってあと何年農業を続けられるのだろうと。自分が野菜の作り方をなにも知らないままに親が引退したらもったいないと思ったんです。最初は純粋に親が作っていた米や野菜を作ろうと思ったんですが、生活のことを考えてパクチーになった。農家をやろうと思ったのは、小さい頃から野菜を作ってくれた両親に、私の夫が亡くなり心配かけたので恩返ししたいと思ったからなんです」

 最初は2月にパクチーの種まきをして4月に収穫し飲食店へ出荷しました。知り合いの紹介で築地市場にも出荷した。飲食店は、自分が働いていた店との繋がりがあった。価格は1kg1000円。しかし市場では、ほかの産地からパクチーがたくさん出てきたら価格が10分1になってしまった。そうなると生活がなりたたない。大きなマーケットではのまれてしまう。自分のブランドとして高付加価値になる形をみつけていかないといけない。市場への出荷は半年でやめ、次に展開をしたのが加工食品の開発だった。パクチー・ペーストなど10種類を創った。

広い畑で元気に育つパクチー

「第一号はペースト。最初は、知っている飲食店とコラボレーションして作ってもらいました。カレー、餃子などは飲食店の伝手で、開発費を払って商品開発をしてもらった。農産加工では、千葉県の農商工連携事業への補助があり、活用しました。農業をするまで、規格外のものが大量に廃棄されているのを知らなった。もったいないと6次産業でペースト作りを始めたんです」
 *「農商工等連携事業の促進について」(千葉県)
https://www.pref.chiba.lg.jp/sanshin/noushoukou/nousyoukou.html

「おすすめレシピは、かき揚げ、チャーシューを入れたサラダ、スムージーも私は好きです。イベントの時やお店のお客さんに伝えています。2008年5月、千葉県八千代市がタイのバンコクと友好都市提携を結びました。最近、八千代市主催のタイフェスタに呼んでいただきました」

農業の楽しさと可能性を次世代に繋いでいきたい


 どの地方でも課題になっているのが高齢化とそれに伴う遊休地の増加だ。
「ほんとうに高齢化をしています。若者が就農しないということなんだと思う。収入が安定しないし、農業で楽しみが見いだせないというのが課題だと思っています。うちはブランディングをしているのですけど、自分の生産物で利益がとれて農業が楽しく可能性があることを次世代に伝えていかなければ、就農者は増えないと私は考えているので、そのことをやりぬいて、若者世代が農業って面白いよねと言って農家になりたい子たちのに背中を見せたいなと思ってます。事業も拡大していきたい。生産はもちろんですが加工でパクチーの可能性をどれだけのばせるかなと。カレーと餃子は、みんなが好きな国民食とパクチーが融合したときにどんなユーザーを取り込めるのかなと思って作った商品です」。
 パクチーの栽培にしぼりこみ、栽培から加工からデザインまで、その多彩な事業の打ち出しかたは見事というしかない。楽しさにあふれている。

「私のなかで仕事はすべて同じなんです。デザイナーをやろうと思った時、好きなお洋服を作ろうというのはもちろんありますけど、結局、相手が喜んで買ってくれないと、商品としてなりたたないじゃないですか。お笑いもそうだと思うんですよ。自分の好きなネタをやるにしても、笑ってくれるお客さんがいるからネタがいきてくると思うんです。
 パクチーという食材を私は選びましたけど、パクチーを通じて、どんなお客さんがいて、どんな商品を打ち出して、どういう見せ方をしたら、その人たちがよりファンになってくれるかなと。それはどんな商品にも共通している気がしていて、相手、向こうにいるお客さまにどういうふうに伝えいったら喜ばれるか、という発想が一番大事なのかもしれないですね」


パクチーシスターズ/PAKUCI SISTERS
https://www.pakucisisters.com/

住所:千葉県八千代市大和田新田885-14
アクセス:東葉高速鉄道「八千代緑が丘駅」から徒歩15分
直売所営業日:毎週日曜日10:00ー12:00
*自販機あり