
この、ななめの糸を手繰っていくとわたしは何に出合うだろう。糸の途中をぶつぶつとぶった斬って、斬れた断面をよく見るとそこにはわたしの身体から流れた血がついているのがわかる。
女が引き裂かれながら生きているとはこういうことだ。
ぶちぶちと斬られながら生きるとはこのことだ。斬られている自覚がなければなおのこと、自分自身を真に生きているとは言えないのだから、すなわち生きていない、生かされていない「この世」なのだ。
身もだえするような真実に取り囲まれて、そうそう。早口にもなるだろう。次から次へと沸き上がってくる自分自身を生きることへの葛藤は、忘れたら生きる屍を生きる人生。
感覚があれば、火に炙られてるような焦燥感。皮膚が焼かれてただれる様に、もとは無垢な心がただれて焼かれていくのだ。
感じないように、長いものに巻かれるように、それはそれで自分自身が燃え尽きてしまわぬように、生きる術を身につけて生きよう。平然と何事もなかったように、無関心、無感覚の次元を体得して生きよう。無知ではならない。これは知ってのことだ。知を乗り越えて生きる手段を、受け入れることもあるだろう。
どうか、誰ひとり燃え尽きてしまわぬよう。祈りにも似た、横たわる大きな空気に抱かれて、五感を閉じて前に進む。
そう決めた君。それでも今生では誰にとってもとり乱しの運命なのだ。なぜなら「ここにいる女」だから。
本書の帯を上野さんが書いている。
『一九七〇年。学生運動の瓦礫の中から「十月十日、月満ちて」リブという鬼子が生まれた。田中美津の「便所からの解放」(本書「資料」に所収)は、日本のリブの記念碑的マニュフェストである。リブは輸入品でも借り物の思想でもない。日本のリブが、田中美津という肉声を持ったことを、わたしは喜びたい。本書は、そのほとばしる女性解放への情念で、今でも少しも古びない古典となった。』
この世を生きる女たちへ、ことばを紡ぎ、風を起こし吹き込んでくれた田中美津さん。
わたしたち人類は肉声を越え、先へと変容していかなければならない。
ここに記された史実を過去のものと位置づけるため、祈りだけでは到底できない、自ら誰かを遮るななめの糸にならないよう気をつけながら、生身の声を合わせ、風を起こし、子どもから大人まで、人として生きる権利を守り合う。
■ 堀 紀美子 ■
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