本年度上半期のNHK朝ドラは「虎に翼」。「連続テレビ小説」第110作で2024年4月1日から9月27日まで放送され、吉田恵里香作、主演は伊藤沙莉。日本初の女性弁護士、三淵嘉子さん(1914-1984)をモデルにしたドラマで、放送が開始されると「!!!」「♡」「拍手」の連続。毎日毎朝、続きが楽しみで、見る度に胸がスカッとした。語られる言葉に膝を打ち、涙し、「これは私の人生に繋がっている」と納得できた。法律関係にとどまらず、ジェンダー関連の考証なども専門家にアドバイスを仰ぎ、細かい点まできっちりと押さえた丁寧な作りで、シリアスな演出や制作が高く評価され、視聴者からの信頼も厚かったと思う。法律を絡めながら世の中にはびこる(女性)差別に焦点化したもので、出色の出来だった。
取り上げられた原爆裁判、尊属殺人(親による子の性虐待が原因)、不可視化され社会の透明人間にされてしまっている性的マイノリティ、長く差別・抑圧され続けてきた朝鮮の人たち…知らなかったことも多く、本当に勉強になった。殆ど取り上げられることの無かった生理痛にも言及してくれた。
netで目にする「とらつば」の感想には自己語りをしているものが多いが、それは「とらつば」から届く剛速球、直球が自分の中の何かを呼び覚まし、こだまして、自分を語らずにいられなくなる…観ている女性たちの自己語りを誘発するからだ。それだけの力のあるドラマだ、ということなのだろう。

百年も前の話なのに、今に通じることが余りにも多い。今と符合することがあり過ぎる…というか、今の日本がジェンダー不平等であることが丸見えになってしまう。
「とらつば」は、私たちが生活の中で感じる違和感や疑問、モヤモヤが自分たちが受けている差別や抑圧から生まれたものだと気づかせ、それは「許されるものではない」のだと被差別の「当事者」性を獲得させてくれたと言える。ドラマを観ることで自分の経験を「差別を受けている当事者」と再定義できたのであり、自己責任なんてとんでもない、個人的な力不足のせいで不利益・理不尽をこうむっているのではなく、日本社会の構造・枠組みが引き起こしたことなのだと腑に落とすことができたのだ。被差別の当事者性の獲得、これが「とらつば」の最大の功績なのではないだろうか。

そして、「とらつば」はたくさんの女性たちを間違いなくエンパワーしてくれた。
「人生を失敗なんてしてない。自分を責めて辛くなるくらいなら、周りのせいにして楽になって。ここまで頑張って来たあなたたちには、その権利があるってこと。だから、失敗なんかじゃ絶対にない!!」
思わず涙してしまった劇中のセリフだ。そう、女性たちはいつだって、どこでだって頑張って来た。ドラマの舞台である百年前から今日まで、差別に耐え、歯噛みしながら頑張って来た。
ドラマで示された、疑問や違和感のモヤモヤに「はて?」を返すことは実はとても大事なことであり、自分を変え、社会を変えていくことにまでつながっていく…と「とらつば」は教えてくれた。

私たちが目指すのは「男並み」ではない。「女性」というだけで差別されない社会だ。だが、そこに至るまでに一体どのくらい時間を要するのだろう…
でも、諦めない。くじけない。三淵さんたち先達が頑張って来て下さった様に、たとえすぐに消えてしまう雨だれの一滴であっても、自分に正直に「それは違う」と訴え続けていきたい。