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震災後の文学と文学者の使命 『震災後文学論』 木村朗子

2014.03.11 Tue

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 「あの日」の出来事は、身内や友人という価値観が近いと思っていた人たちのあいだのさまざまな差異を明らかにした。とりわけそれを複雑にしたのが原発事故である。しかし、その一方で巷にはあらゆる違いを無視し、暴力的に十把一絡げにしようとする「絆」だとか、「がんばろう!日本」などということばが溢れていた。それに対して違和感を覚えても、ストレートに表現するのはなかなか難しい。このいわく言いがたいものに、フィクションで挑むのが「震災後文学」である。

 本書『震災後文学論』のなかで、木村朗子は東日本震災後に生み出された新しい文学を震災後文学と名付け、それは単に震災後に書かれたものではなく、「書くことの困難のなかで書かれた作品こそが、震災後文学」なのだという。震災直後は書かれたものよりも、むしろ作家が震災を「物語ることの倫理」観が何よりも重要視されていた(いとうせいこう『想像ラジオ』に対する評価をめぐって)。また何よりも書くことが困難だと思われているのは原発事故とそれによる放射能汚染だという。本書では、過去に原発事故を扱った作品を映像作品も含めて紹介したうえで、原発震災後に書かれた川上弘美の「神様2011」に言及している。もちろん連載中の小説は東日本震災の影響を受けずにはいない(小説は生ものだ)。フィクションを表現する映像の分野でも、あえて震災を物語ろうと試みが見られる(園子温『希望の国』他)。しだいに書かれる小説も短編から長編へと移り変わっていく(津島祐子『ヤマネコ・ドーム』)。

 ある文学が評価の定まらない生まれたての状態のときに、あえてこれらを名づけ、論ずるのは、とても勇気のいることだ。木村さんの「蛮勇」というより、この文学者として使命感に心より敬意を表します。(lita)








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