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平井和子 『日本占領とジェンダー―米軍・売買春と日本女性たち―』

2014.12.03 Wed

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.WANのみなさま、この秋に、牛歩のごとく進めた足掛け15年による研究の成果を出版いたしました。ここに、紹介させていただきます。

日本軍「慰安婦」問題は、発生から約70年、被害者女性が名乗り出てから23年。近年、解決への議論は錯綜し、国家間でますますこじれた糸は絡まり合っています。これを助長するかのように、一部の政治家は、「兵士への性的慰安は軍にとって必要だった」、「世界各国の軍隊もこれを利用してきた」とし、「なぜ日本だけがレイプ国家のように非難されるのか?」と抗弁するに至りました(橋下徹大阪市長、2013年5月13日)。また、『朝日新聞』が1990年代の「慰安婦」報道を巡って、一部証言の記事の誤りを認めたことに関して、その1点を以て、慰安婦制度そのものをなかったことにしようとするキャンペーンが大々的に展開されています。

本書は、噴出するこのような現在の問題を強く意識しつつ、これらの課題に対して、敗戦後、日本政府が用意し、占領軍がこれを利用したRAA(特殊慰安施設協会)と「特殊慰安所」、および米軍基地売買春の実態を基にして、解決の方向を探るものです。敗戦という未曽有の危機、外国軍の上陸に際して、女性を「護るべき女性」と「差し出すべき女性」に二分化し、双方の「女らしさ」を最大限利用して、敗戦国の男性リーダーたちは自分たち自身の体制維持を図りました。日本占領は、「平和的進駐」、「成功した占領」などと評されますが、敗戦国男性と占領国男性の間で、下層の女性たちの性が取引され、「良好な占領関係」の道具とされたことは逃せません。

近年、韓国でも、朝鮮戦争時に作られた国連軍「慰安所」や冷戦下の米軍専用「基地村」の存在を厳しく問う研究・運動が始まっています。アメリカでも、「解放軍」として記憶されているノルマンディ上陸時のGIたちの「神話」を暴く研究(Mary Louise Roberts, What Soldiers Do; Sex and the American GI in World War France, The University of Chicago Press, Ltd., London,2013)も出版されました。本書も、戦勝国軍—敗戦国軍、枢軸国軍—連合国軍の別を問わず、戦争(占領)遂行の道具として女性の性を利用して来た「軍隊と性暴力」の共生関係を解体するためのグローバルな研究に連なりたいと思います。それが、橋下氏の「どこの国の軍隊もやって来たこと。なぜ日本だけが責められるのか?」という問いに対する一つの反論になると思います。

以下、目次です。

序章 日本占領から「軍隊と性」を考える

第1章 占領軍「慰安所」(RAA・特殊慰安施設)の開設と展開

第2章 日米合作による性政策

第3章 米軍基地売買春と地域―1950年代の御殿場を中心に―

第4章 占領と売春防止法

第5章 売春取締地方条例―静岡県の場合―

第6章 「婦人保護台帳」にみる売春女性たちの姿―神奈川県婦人保護相談所の記録から―

終章 女性たちの出会い直しのために

(著者 平井和子)








カテゴリー:著者・編集者からの紹介

タグ:慰安婦 / / ジェンダー / 売春 / 米軍基地 / ジェンダー研究 / 戦時性暴力