2013.02.26 Tue
2月9日(土)、シンポジウム「ソーシャル男子が社会を変える」を開催しました。パネリストにお招きしたのは、コミュニティ・ユース・バンクmomoの代表理事、木村真樹さんと、社会福祉法人むそうの理事長、戸枝陽基さんです。またコメンテーターとして、NPO法人地域福祉サポートちたの代表理事、岡本一美さんにもご登壇をいただきました。
木村さんは2005年、「お金の地産地消」をキーワードに、東海地方初のNPOバンクとしてmomoを立ち上げ、NPOやコミュニティビジネスなどの地域課題を解決する事業を行う個人・団体へ融資を行ってきました。現在はそれに加えて、愛知県初の市民ファンド「あいちコミュニティ財団」の立ち上げにも奮闘されています。
戸枝さんは1999年より愛知県半田市で、重度障がい者を対象とした地域福祉分野で事業を展開してきました。2000年にNPO法人ふわり、2003年に社会福祉法人むそうを立ち上げられてから、双方の特徴を生かした事業を展開してきました。またこの1月からは愛知県を超え、東京での新事業も開始されています。
この、30代の男性2人の活動を、比較的近い距離で理解し、応援されてきた岡本さんに、今回は少し先行く先輩としてコメントをいただき、かつ参加者の皆さんとお二人をつなぐ役割もお願いしました。
会場は約60名の参加者で埋まり、男性がなんと6割も。しかも若い男性の割合がとても高い!という印象で、ソーシャルビジネスに対する関心(あるいはパネリストのお二人とそれぞれの事業に対する関心も)が、若い世代の男性に多くあることが感じられました。
さて、今回のテーマは「ソーシャルビジネスを担う、若い世代の男性」=「ソーシャル男子」と定義して、彼らの社会変革のチカラを、事業以外の視点から探る試みをしました。ソーシャルビジネス、というのは「ソーシャルな課題を、事業的な手法で、継続的に改善するビジネス(ダイバーシティ研究所、田村太郎さんの定義)」であり、ソーシャルビジネスが社会変革につながるのは、まさにそれを目指すがゆえなのですが、今回は事業そのものではなく、むしろそれを出発点に、そこからできるだけ掘り下げて、担い手の「人」に焦点を当てることが狙いでした。
社会に提供されている既存の働き方の枠に収まらず、自分で仕事と働き方を作り出すこと。しかも社会の困りごとを解決したい、というところからビジネスを立ち上げる若い世代の男性たちの、暮らしや社会に対する眼差しや価値観の変化が、社会変革と、男女共同参画にもつながっていると仮定して、パネリストのお二人からお話を伺うことにしました。また、当然ですが「男女共同参画」の分野も、企業、自治体だけでは解決のできない課題があり、それを継続的に改善するためには「ソーシャルビジネス」という手法は、有益な解決策の一つです。お二人から、フロアを埋めた(未来の)担い手・支援者・共感者に向けた明るいメッセージをたくさんいただけることを期待して、シンポジウムを開始しました。
というわけで今回は「事業」「社会」「人」をテーマに、パネリストのお二人の、それぞれとの関わり方、それぞれに向ける眼差しや価値観などを伺う時間となりました。結果、期待していた以上の、たくさんのキーワードや心に響くメッセージをいただくことができたことを実感しています。パネリストお二人の実践に基づいた率直な言葉が、会場の笑いや納得の頷きを引き出し、岡本さんのコメントが共感でつなぐ、その繰り返しでシンポジウムは進んでいきました。主催者としての反省は多々ありますが、アンケートの反応と満足度の大きさや、シンポジウム終了後の名刺交換や挨拶の時間に、参加された皆さんがなかなか会場を去らなかったこと、あちこちで人の輪ができ談笑されている表情などからも、それぞれに何かを持ち帰っていただけるイベントだったと感じることができました。
お二人の言葉のすべてを紹介することは難しいのですが、お話の中で印象的だったことのいくつかをご紹介します。まずは、事前の打ち合わせの段階からも言われていたことなのですが、お二人とも「ソーシャルビジネスの担い手」と言われることに苦手感がある、ということです。もともと、ソーシャルビジネスをしたかったわけではなく、社会的な課題に何とか向き合いたいと思い、それを持続可能なやり方で解決できる手だてを実践したらそれが「ソーシャルビジネス」と呼ばれていた、というところは、ニーズがあるから動く、必要とされている人にサービスを届ける、という当事者に寄り添った姿勢と志が、確かに社会を動かす原動力であることを感じました。「苦しんでいる人が目の前にいたら手を出す。何か出来ることはないかと考える。それは人として当たり前じゃないですか」という人が世の中にもっと増え、その人たちが分野や世代を超えてつながったら、身近な困りごとはより解決に向かうでしょう。
また、質疑応答の時間にも印象的な発言がありました。「女性は、活動にしろ、仕事にしろ、公的領域で何かをしようと思ったら、どうしても育児、家事、介護などの私的領域に縛られてしまう。木村さん、戸枝さんは、家事、育児、介護などのケア労働(再生産労働)についてどう考えていらっしゃいますか。また、どう実践していますか」という質問に対して、戸枝さんが「戦後、高度成長の中で社会は「生産」と「家庭」の二つに分けられたけど、この二つは、はっきり分けなくても、もっとボーダーレスでいいんじゃないの?と思いますけどね。たとえば女性が赤ちゃんおぶって会社に来てもいいじゃないですか」と。続けて、ご自身の職場では女性が多く、有能なその人たちが仕事も続けながら出産、育児を当たり前にできるために、自分がその当事者だったらと想像し、これまでの社会の仕組みにとらわれない働き方を工夫しているというお話をされました。それを受けて岡本さんから、「特にNPOは、それができるところなんじゃないでしょうか。自分たちで働き方を決められるし、社会に新しい仕組みを作る可能性も持っている。わたしたちは女性だろうと男性だろうと、だれもが気持ちよく働いて、楽しく、心地よく暮らせる社会を作りたいと活動しているのです」とお話があり、大きな共感を生みました。
最後に、10代、20代といった、さらに若い世代への期待とエールが語られたのも印象に残っています。木村さんはmomoが実践してきた、「momoレンジャー」という20~30代のボランティアが事業を支える仕組みを紹介しながら、むしろ若い人たちの経験と専門性の不足が、融資先の事業に寄り添う存在としてプラスに働くこと、彼ら、彼女らの熱意が、年輩の専門家たちの志や熱意を引き出すことを事例としてお話しくださいました。戸枝さんも、「今の閉塞感にあふれた社会の中で、僕たち以上の世代はまだまだ経済成長の幻想を見て贅沢をしたがるけど、もっと若い世代の人たちはむしろ、最初っからそんなのはないところで育ってますから、ゆるやかにお金の価値観を下げ、「降りて」きてますよ。問題なのは、育つ力も未来もある若い世代が、きちんと就労をし活躍できる場や希望を、年輩の僕たち以上の世代が差し出せていないことなんじゃないですか」と。先に生きてきた存在として、若い世代になにを手渡すか、その答を実践で作り出すことに全力を注ぐお二人の言葉は、どれもが納得と共感に満ちたものとなりました。
最後に、この企画の立案者としての個人的な思いを述べます。
男女共同参画、 というのは非常に幅の広い言葉です。ともするとそれは「男が仕事、女は家事・育児」の従来の境界線をただ壊すこと、互いが互いの領域に入ればいいこと、と受け取られかねません。そんな理解で「なぜ、女性の担い手を取り上げないのか」とか「ソーシャルビジネスがなぜ男女共同参画のテーマに入るのか」といった反応に、あえて答えを提示してみたいという気持ちがありました。解決するためには非常に手間がかかり、かつ効率も悪い社会課題に対してあえてビジネスで挑むお二人の、多様性や社会的包摂に拓かれた実践にふれていただければ、答えが見えてくると思ったのです。お二人の言葉からは「男女共同参画」という言葉は出されなかったのですが、女性を含め暮らしに負荷のある人たちの働きやすさを工夫したり、女性に積極的に責任のあるポストを任せたり、子育てに主体的に関わったりと、性別役割分担や、男性主体の働き方を越える実践には、確かに男女共同参画社会につながる、男性の意識や行動の変化を感じました。今回のチャレンジングな試みに、そして「ソーシャル男子」という人を食ったようなキャッチコピーにもかかわらず、登壇にご快諾くださった木村さん、戸枝さん、岡本さんには心より感謝を申し上げます。ご参加くださった皆さまへも、本当にありがとうございました。
(中村奈津子)
カテゴリー:参画プラネット
タグ:男女共同参画 / ソーシャル・メディア / 中村奈津子
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