2013.10.24 Thu
昨年末、10数年ぶりに大学の同級生だった山口さんと会いました。学生時代と印象が変わったように感じました。
どちらかというと、おっとりして優しい雰囲気だった山口さんがたくましく、強くなっている気がしたのです。彼女が学生当時から
学んでいた薬草を使った自然療法「Kohki Therapy」(http://kohkitherapy.com)を仕事にして、その普及のために
オーストラリアに行き、現地で2人のお子さんを育てていることは知っていました。でも、海外で長期生活をしてもほとんど変わらない人もいるのに、何が彼女を変えたのだろう・・。
山口さんと話をしてみると、現地では「Kohki Therapy」のセラピストとしての仕事に加えて、日本からオーストラリアへの「親子留学」斡旋をコーディネートする事業をやっていた、とのこと。
いわば、起業家!それはたくましくなるはずだ、と納得しました。海外で働くことに興味を持ちつつも、大学卒業以来、日本で会社勤めをしていた私は山口さんを心底、かっこいいなあ、と感じたのです。
そもそも「親子留学」とは、子どもの幼稚園・小学校への体験留学に親が付き添う形の留学のこと。日本の小学校で英語が必須科目となったことなどを背景に、英語の早期教育熱が高まり、「親子留学」はじわじわと人気が出てきているそう。山口さんの親子留学を斡旋する事業「ゴールドコースト・キッドママクラブ」ではゴールドコーストを拠点に、幼稚園児から小学生の子どもとその保護者を対象とした親子留学プランのプロデュースを行っていました。具体的には希望に応じた留学のプランニング、幼稚園・小学校及び滞在先の手配、出発前のカウンセリング、空港からの送迎、幼稚園・小学校への送迎、先生と保護者との間のコミュニケーション・サポートなどを行っていたそうです。
と、過去形で書いているのは、山口さんはこの事業を発展させた後、他のエージェントに譲渡し、現在は大学で医療を学びつつ、元々していたセラピストの仕事に専念されているからです。女性には出産、育児など仕事との関わり方を改めて考えなければならない時期がありますが、山口さんがこの事業を起こしたのは出産がきっかけだったとか。今回、記事で取り上げるにあたり、彼女がライフサイクルの中でどのように事業と関わってきたのかを聞いてみました。
Q:「親子留学」をコーディネートする事業を始めたきっかけはなんですか?
山口さん:オーストラリアで二人目の子供を妊娠後、切迫早産となり、半年間寝たきりで仕事ができなくなってしまいました。動くことができず辛い日々でしたが、ちょうど上の子が幼稚園に通い始め、オーストラリアのマルチカルチュラルな教育がとても魅力的であることを知りました。その頃、同じくらいの小さな子供を持つ日本の友人たちより「英語教育を始めたいけど、どうすればいいだろう」と相談を受けたことがきっかけとなって、ローカルの幼稚園で(後に小学校でも)安価で気軽な体験留学をアレンジできないか、と思い立ちました。ゴールドコーストに住む“今は子育てに専念しているけど昔はバリバリ働いていたわ”という日本人のママ友達を数名リクルートして、現地でのアテンドならびにホームステイの際のホストファミリーをお願いすることにしました。
Q:事業を続ける中で、特に苦労したことはなんですか?
山口さん:「親子留学」のエージェントの中でも、小さい子供を主役にしたところは少なかったようで、需要は予想以上にありました。苦労したのは現地の幼稚園・小学校での留学枠の確保。なにせオーストラリア人の事務の方々は、直前にならないと最終的に受け入れOKかどうか返事をしてくれないのです。でも、日本のお客様はたいてい、数ヶ月前に予約を確定したいもの。最初は直前に「NO」と言われないかドキドキしていましたが、幼稚園・小学校のスタッフと信頼関係ができるにつれ、確実にスポットを空けてくれるようになりました。そして、スポット確保が難しい他のエージェントからも仕事が回ってくるようになりました。
Q:具体的にはどんな働き方をされていたのでしょうか?
山口さん:留学事業を始めた当初は、私自身、日本のお客様とのメールや電話でのやり取りのほかに、幼稚園や小学校、クィーンズランド州の教育省との交渉を始め、ホストファミリーの開拓、お客様の空港送迎や通園・通学の送迎、小学校での面接の付き添いなど、現地でのもろもろの仕事にも関わっていました。なので、日本の夏休み・冬休み・春休みにあたる繁忙期は同時に何組もの受け入れをして目が回るような忙しさでした。
ちょうど4年目に入った頃、大学へ通い始めることとなり、私自身の仕事は基本的に日々2~3時間のメールや電話でのやり取りのみになりました。代わりに現地でのさまざまな業務は、送迎担当のスタッフや専属のホストファミリーに任せられるようになっていました。彼女たちは、もともと旅行業やサービス業の経験があり、かつ子供を抱えた主婦でもあったので、小さいお子さんへの対応や現地での生活指南にも長けていました。彼女たちのおかげで、短期留学が気に入って、その後スムーズにゴールドコーストへ移住をされたご家族が何組もいらっしゃり、今ではちょっとしたコミュニティができています。
Q:女性が仕事をする環境として、オーストラリアが日本と比べてよいと思う点はありますか?
山口さん:一つは、オーストラリアでは独立自営業をするにあたり、手続きが割と簡単で、比較的規制も少ない点。なので、日本に比べると独立自営業者の割合が多いです。もう一つは、全体的に勤務時間が日本より短くフレキシブルなので、お父さんの育児参加率が高い点。わが家は小学校の3時のお迎えを、週3回夫が担当していますが、クラスの3分の1くらいはお父さんがお迎えに来ているので、特に違和感もありません。日本で午後3時のお迎えにお父さんがしょっちゅう来ていると、失業中でないかと心配されるのでは…。わが家は日本人夫婦でこちらに祖父母もおらず、幼稚園の延長保育や学童保育の費用もとても高いので、夫婦で家事・育児を分担することが、仕事を続けていく上で必須でした。
Q:山口さんの経験から、女性が海外で自ら仕事をつくっていくために必要な心がけを教えてください。
山口さん:身の回りにある、新たなニーズを見出すこと。私は、切迫早産で寝たきりの期間がなければ、幼児の英語教育に興味を持ち、日本の子供たちとこちらの教育をつなげることを思いたつこともなかったかもしれません。実際に、小さな子供のための留学コーディネートは、現地に子供のいるお母さんがやった方が、大手の留学エージェントよりも、きめの細かいサービスが提供できます。また、子育て中でフルタイムで働くことが難しい現地のお母さんたちにとっても、自分の生活の延長上で、日本から来たお子さんのお世話を仕事としてすることができます。私たちの「ゴールドコースト・キッドママクラブ」がそれなりの成功をしたことによって、子供のいるお母さんで同じように留学エージェントを立ち上げた方がいらっしゃり、「参考にさせていただきました」と言われたことはうれしいことでした。
また私の友人には、日本に帰国した際に地元の酒蔵から日本酒を持ってきて、シドニーでのSAKEブームを仕掛けた人、自宅の庭で丹念に育てた青ジソを、長年日本食料品店や日本食レストランに卸している人など、ちょっとしたアイディアでビジネスを展開している女性もいます。一つのビジネスを続けていく中でも、つねに新たなニーズを探し続けることも大切ですね。
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大仰なコンセプトをぶち上げなくても、普段やっていることの延長線上に、仕事を起こすきっかけがある。それは海外に限らず、
「おんなの仕事づくり」のヒントのように思います。事業を起こす、というのはすごく大変なこと、自分からは遠いことと
思えますが、山口さんの話を聞いていると「もしかして自分にもできるかもしれない」と勇気をもらえる気がしますね。
最後にオーストラリア「親子留学」に興味を持たれた方のために、アドバイスを山口さんからいただきました。
どうぞ参考にしてください。
「2週間~3ヶ月程度の短期留学で、子供の英語力が驚くほどアップするということはありません。ですが、おおらかな先生方や、
いろいろなエスニシティの子供たちとの触れ合いを通して、“英語でしゃべって、いろんな人たちと話したい!”というモチベーションの
高まるお子さんが多いです。また、日本の幼稚園や小学校よりも遊びの要素が強く、子供たちにとってはとても楽しいようです。
オーストラリアは、マルチカルチュラル教育をきちんとやっていて、すんなりクラスに溶け込むことができる点でもお薦めですよ。」
(余川 智 記)
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