2009.09.15 Tue
8月18日、舛添厚労相が、年越し派遣村に集まった人を指し、「怠け者には税金を使うつもりはない」と言ったかと思うと、今度はその弁明の中で、「怠け者とは生活保護母子家庭のことだ」と発言した。怒りを通り越して心底情けなくなる。これが日本の厚生労働行政を担うトップの発言なのだろうかとため息をつきながら、一方で、この発言こそが日本のシングルマザーの「貧困」を如実に表していると、改めて思うのである。
<母子家庭の現状>
母子家庭の84.5%は働き、ダブルワークをしている人も多いのに、大多数の就労収入は140万そこそこである。養育費はまったくあてにならず、母子家庭の8割が受給しているまさに命綱の児童扶養手当は最大年額50万円少々で、それを入れても200万に届かない。収入が少ないのは母子家庭のせいではない。そもそも女性の賃金が低いこと、仕事と子育てが両立できるような社会環境でないこと、子連れでの再就職は非常に難しいことなどから、母子家庭は、低賃金・短期間・短時間の非正規職を転々とするしかないのだ。しかも、何らかの暴力を原因とした離婚も多く(直接原因としてあげていなくても)、心身に後遺症を持ち、小さな子どもを抱え、仕事もなかなか見つからない中では、生活保護(生保)が最後の頼みの綱なのである。
<生活保護と児童扶養手当>
とはいえ、多くは生保以下の収入なのに母子家庭の生保受給率は2割に満たない。なぜか。DV夫(子どもの扶養義務者である)に連絡されることを怖れたり、貯金があってはだめだと言われ、なくなったら受給できるかと聞いても、それは保障できないと言われ、子どもを抱えて無一文にはなれず、また露骨に蔑みの言葉を投げられて、申請をあきらめるのである。そして、一番の懸念は更なる差別である。母子家庭は、いつも疑いの目で見られている。児童扶養手当の窓口では、長屋の隣に男性が住んでいるだけで、一つ屋根の下に男がいるから事実婚だと言われたり、前夫の両親が近くに住んでいるだけで偽装離婚だと言われたりする。所得制限を超えると、もちろん手当は受けられないのだが、所得があまりに低いと、これで生活していけるはずがないと不正を疑うのである。公務員から見ると生きていけない収入かもしれないが、それでみんな必死で生活しているのだ。こういった無知は暴力に等しい。また、隣近所からは、母子家庭のくせにきれいな格好をしている(もらい物だ!)、男が出入りしている(扶養・同居がない限り恋人がいたって手当は受給できる)と詮索される。もうこれ以上の差別を受けたくなくて、サラ金からお金を借りても生保を申請しない人もいる(そして多重債務に陥るのだ)。要するに受給している人は、とことん追いつめられての受給だ。しかも半数は働きながらである。しかし、ここでも不正を疑われたり、働けない(収入が少ない)ことをちくちく責められたりするので、追い立てられるように半端仕事を重ねて身体を壊したりする。また、生保はほとんどが用途が決められていて、将来のために何かしようとしてもその余裕がない。母子加算も忙しい母子家庭ならではの日々の不足を補う程度でしかなかったのに、この4月から廃止されてしまった。代わりに、就労促進費なるものが新設されたが、額も少なく、働けない人には全く意味がない。逆に、母子家庭は働きもせずに保護を受けているというイメージだけが一人歩きするのではないかと懸念していたところに、今回の舛添発言だ。これでまた生保申請をためらう人が増えるだろう。餓死者が出ないことを祈るしかないのか。
<なぜ母子家庭はここまで叩かれあるいは無視されるのか>
昨今クローズアップされるようになった貧困問題でも、社会問題としてはあくまで「仕事を失い家を失った若い男性問題」、あるいはせいぜいようやく、男性ホームレス問題である。昔から貧困だった母子家庭はないことにされている。それは、貧困になって当然だ、自業自得だと思われているからだ。女が、男に従う努力をせず(DVの場合は命がけだ)、自分の選択で離婚したり非婚で子どもを産んだりするからだと。貧困は母子家庭を選んだ女への罰だ。それでも、髪振り乱し子どものためにだけ働いていると認められれば、お情けのような手当がもらえる。児童を扶養するための手当てを。しかし、シングルマザー(女性)自身の貧困には目を向けられることはない。母子家庭で育つ子どもの貧困が取り上げられても、次代を担う子どもの貧困が問題なのだから連鎖を食い止めればすむと思われている。子どもが育った後のシングルマザーが無年金だろうと、知ったことではないのである。この社会でシングルマザーは、子どもを、それも安価な労働力を育てる「装置」に過ぎないのだ。「怠け者」と罵るのは、舛添氏の無知などではなく、実はとてもよく知っていて、シングルマザーを単にお金のない貧乏状態におくだけでなく、孤立させ、パワーダウンさせ、装置としてしか生きていけないと思わせるためではないかと思うのはうがちすぎだろうか。
(なかのふゆみ NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ関西 http://smf-kansai.main.jp/ )
(世界女性会議ネッ関ニュースNo.78 初出)
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過去の選挙関連記事です。
◆2012年 選挙関連記事アーカイブ
http://wan.or.jp/reading/?p=8438
◆2009年:特設衆院選:男女平等政策についての公開質問状
http://wan.or.jp/reading/?p=118
◆~2013年 ジェンダー平等関連記事
http://wan.or.jp/emergency/?tag=ジェンダー平等
◆2012年 政党からの回答が届いています! ジェンダー平等政策を求める会
http://wan.or.jp/emergency/?p=1224
◆2013年「とりもろす」べき日本とは? -Jファイル2012を読む― 千田有紀
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