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映画評 『17歳の肖像』  土井ゆみ(サンフランシスコ在住)

2010.04.18 Sun

自分を作ったと思える体験

 邦題『17歳の肖像』がちょっと違う感じだ。原題『An Education』では訳しようがなく、カタカナにしても意味不明だったと思うのだけれど、この題名では観て欲しい女たちに届かない気がする。16歳の少女が学校以外で学んだことの大きさ、そんな意味が含まれた原題だと思う。主人公を演じたキャリー・マリガン(二四歳!)が聡明で透明感のある少女を好演し、今年のアカデミー主演女優賞や作品賞にもノミネートされていた。60年代初頭のロマンチックな音楽やファッション、ヘアーも見どころで、10代の頃の失敗や過ちを振り返って、あの体験が自分を作ったと思えるようになった女たちにぜひ観て欲しい映画だ。もちろんティーンの女の子たちにもお薦めしたい。 映画の舞台はロンドン郊外、まだビートルズ旋風が起きる前の静かな時代1961年。厳格で小心者の父(アルフレッド・モリーナ)の期待を背負う一人娘ジェニー(キャリー・マリガン)は、学業優秀な16歳。オックスフォードを目指して勉強とチェロの練習に励み、グレコのレコードを聞いて、うっとりとフランスに夢を馳せるおませな少女だ。

 そんな彼女に、高級車に乗るデイヴィッド(ピーター・サースガード)が声を掛けた。ソフトな誘い文句で、ナイトクラブや絵画オークションに彼女を連れ出し、ジェニーを魅惑する。受験勉強ばかりで退屈し切った少女なら誰だって、華やかな大人の世界を案内してくれるこんな男に魅了されるハズ。しかも、この男はなんと両親の心まで掴んでしまう。言葉巧みにジェニーの家にやってきて、「17歳の誕生日にパリ旅行をプレゼントしたい」と申し出て、まんまとジェニーをパリに連れ出してしまうのだ。

 まさかと思う展開だが実話である。原案は英国で著名なジャーナリスト、リン・バーバーが雑誌に書いたメモワールだ。あれだけ進学に熱心だった父がハイソに振る舞う男にコロリと騙され、母は「もう大学は行かなくても良いわよ」と言い出す始末。素朴で古めかしい時代を感じさせられるが、たった40年前の話だ。脚本は小説家ニック・ホーンビィ(『ハイ・フィデリティ』)で、デンマークの映画運動ドグマ95のロネ・シェルフィグ(『幸せになるためのイタリア語講座』)が監督をしている。原作に惚れ込んだ二人の女性製作者が奔走して映画化が可能になった。

 ジェニーは両親の豹変に首をかしげつつも、学校を辞める決意をして校長(エマ・トンプソン)や担任女性教師と対立。「退屈な勉強を続けて、その結果としてあなたみたいになるのはゴメンだわ」と言い放ち、少女のごう慢と残酷を全開させるが、教師たちは最後まで彼女を見守り続ける。ここで教師の演じる役割の大きさも読み取れる演出がなされ、題名の意味が生きてくる。あの年齢独特の生意気盛りを目一杯生きて、最後にある納得に辿り着く賢いジェニーだ。

 バーバーはその後、無事オックスフォードに進学し、そこで生涯の伴侶になる男性と出会っている。「あの体験の後、頼りがいのある正直な男の良さに引かれるようになった。確かに私の無邪気さは失われたし、人に対して懐疑的になり、自分が知っていると思う人でも、人間は究極的には理解不能ではないかと信じるようになった。これは私のインタビュアーとしての土台になっていると思う」と語るバーバー。

 彼女は英国では超辛口のインタビュアーとして知られ、欧州各国の政治家から俳優まで「まぬけ」「頭がおかしい」「被害妄想」など歯に衣きせぬ筆致で書きまくり「悪魔のバーバラ」と怖れられているという。「有名人の記事っておべんちゃらばかりで面白くないじゃない」という彼女。本作の映画化に当たって、オーランド・ブルームが不可解なドタキャンをした経緯についても率直な記事を書いている。ガラガラのスモーカーボイスで早口に語る映像を見ると、良いことも悪いこともすべて取り込み、力にする豪胆な人柄がうかがえた。親を巻き込んだ課外授業は無駄ではなかったようだ。

 上映時間:1時間35分。4月17日から劇場公開予定。
 映画のオフィシャル・サイト → http://www.17-sai.jp/

(『女性情報』2010年3月号、「WORLD REPORT」より)

カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:非婚・結婚・離婚 / 恋愛 / ロネ・シェルフィグ / イギリス映画 / 女性監督