エッセイ

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京暮らしつれづれ・7 夏を送る大文字    中西豊子   

2010.07.25 Sun

 京野菜は健康志向に乗って、近頃では結構人気商品だそうです。万願寺とうがらし、賀茂茄子、九条葱など、地名のついた野菜たちです。中でも鹿ケ谷南瓜は、珍しい瓢箪型をしていてなかなか趣があります。それにビタミンCが豊富だとか。

 鹿ケ谷にある住蓮山安楽寺では、毎年、7月25日に南瓜供養が行われ、ほくほくと炊けた南瓜がふるまわれます。食べると中風にならぬからと(ホンマかいな?!)、沢山の方がお参りされます。

 このお寺は、鎌倉時代、浄土宗開祖の法然上人の弟子、住蓮上人、安楽上人のお二人が念仏道場を建てたのが始まりです。ところが、この二人の僧の読経がめっちゃ美声だというので大人気。二人に熱をあげた後鳥羽上皇の女官、松虫、鈴虫がひそかに出家してしまったのです。

 上皇さんはこれを知って怒り心頭、二人の僧は処刑、その師である法然上人は土佐へ、親鸞上人は越後へと配流されました。「1207年の法難」という有名な事件のゆかりのお寺です。今もこの美声(私も聞きたかった!)の二僧を追善しています。 今ならさしずめ韓流スター追っかけが嵩じたみたいなものですが、いくら上皇さんお気に入り女官だったとしても、法然さんや親鸞さんまでとばっちりを受けられるなんて、お気の毒な話。上皇さんならきっと沢山の女官がいたでしょうに、この騒ぎとは、肝っ玉の小さいことですねえ。

 さてさて、京の8月と言えば、「大文字」が出てこなければ納まりが付きません。五山の送り火と言うとおり、京都の市内を取り巻く五つの山に火を灯して、「おしょらいさん」(精霊をこう呼びます)を送ります。

 お盆に家に帰って来られたおしょらいさんのために、13日から16日まで、仏壇にお供え物をします。近頃では、蓮の葉とお供えのセットがスーパーにも売っていて、皆、苦労してるんだわと、思わず笑ってしまいます。16日になると、亡き人の霊が再びあちらの世界に帰るので、門口で火を焚き送り出します。この火を焚く習わしも、すっかり姿を消した気がします。こんな様々な風習も女たちが家の中だけに居てこそ成り立つわけで、だんだん姿を消すでしょう。

 8月16日は、朝から大文字山は大勢の人がお参りに登ります。準備も大変です。割り木を組んで積み上げた火床を、字や絵の形に沢山連ねるのです。何しろ京都中から見えるほど大きな字を山に書こうというのですから、大がかりなものです。

 夜8時になると、銀閣寺の奥の山、如意ヶ嶽に「大」の字が灯ります。点々と灯される火が一つの線になって、美しい大の字になります。この「大」は右のはねがやや長く、左大文字(金閣寺近く)は左のはねが長いのです。「二つの山の火が、御所のお池に映って「大」の字が重なる」と聞きましたが、本当なら、実に壮大で優雅な仕掛けですね。今では建物に遮られて、とても映るどころではありませんが。

 「妙法」は1文字ずつ二つの山に灯されます。画数も多く、二つの山で同時に火をつけて、美しい文字に燃えるよう工夫がされているそうです。「船形」は炎で描く帆掛け舟です。「鳥居形」は文字通り、鳥居の形をしています。現在では、よほど高いところに登らないと五つは見えません。

 大文字の揺らぎながら燃える送り火を見ていると、亡くなった人たちの一人ひとりが思い出されるから不思議です。これが終わると、京都の暑い暑い夏も少しずつ凌ぎやすくなります。

 八月にはまた、鉦や太鼓で囃しながら念仏を唱える六斎念仏が、壬生寺、千本えんま堂、西方寺、円覚寺、浄禅寺など方々で見られます。それぞれお寺によって日が違いますから、ご注意を。もともと、空也上人のお念仏から始まったと言われ、その歴史は古いのですが、江戸時代に、派手な獅子舞やアクロバットのような芸能へと変化したと言われます。こういうのは芸能六斎と呼ばれ、念仏六斎と共に国の重要無形文化財になっています。

カテゴリー:京暮らしつれづれ

タグ:京都 / 中西豊子