2010.10.28 Thu
「当事者主権の立場から―ケアされるということ」 上野千鶴子さん講演(2010年10月22日、同志社大学)報告
まず初めに、当日の講演に参加されなかった方たちのために、その内容を上野さんが用意された資料の内容に沿って簡単におさらいしてみよう。文言の大幅な省略をしていることをお断りしておく。
①ケアとは、する人とされる2人の間に起こる相互関係である。それは、依存的な存在の要求を満たすことに関わる行為であり、生産・消費される労働である。
(依存的な存在とは、障害者、高齢者、子ども、病者などである)
②ハッピーな介護者でなければハッピーな介護はできない。
(子どもと母親の関係をみるとよく分かる)
③「ケアの権利」にはケアする権利とケアされる権利がある。
(ケアには、ケアされる権利にとどまらずケアする権利も含まれる。
④被介護者の声は介護者と比べて不釣り合いなくらい少ない。
(少ない理由は①介護される側の沈黙 ②介護する側のパターナリズム ③研究者の怠慢)
⑤障害者である中西正司氏との共著『当事者主権』(岩波新書)は、社会を変えるのは「当事者」であるという提言の書。 c
(この本によって研究者の間でもこの言葉が使われるようになった。)
⑥ここでいう「当事者」とは「当事者能力」を奪われてきた人たち、女性、子ども、高齢者、障害者たちのことである。
(女性、子ども、高齢者、障害者)
⑦「当事者主権」という概念は、「弱者救済」から「自己解放」へのパラダイムの変換をめざす。
(①「問題」から「ニーズ(必要)へ」②「ローカル」から「ユニバーサル」へ③「管理」から「自己決定」へ④「措置」から「契約」へ⑤「恩恵」から「権利」へ
⑧「自立」概念の転換→(社会的弱者の自立のための要求は「わがまま」か?)
⑨「当事者研究」とは何か→(「障害学」「患者学・がん患者学」「女性学」「不登校学」など当事者によって書かれた書物の研究
(わたしのことはわたしが一番よく知っている。だからわたしに聞いてよ)
⑨高齢化によって起きる身体的・精神的後退は、若い時の自分がそうであった記憶と比較され、自己否定的になりがちである。
(加齢によって誰もが中途障害者にならざるを得ない。先天的障害者と決定的に異なる点である)
⑩「介護される側の心得10ケ条」上野千鶴子著『おひとりさまの老後』(法研出版)に詳しい。
(①自分のココロとカラダの感覚に忠実かつ敏感になる。②不必要なガマンや遠慮はしない(抜粋)
⑪ケアされるプロとは。ケアされる側が、「みずからのニーズを認識し、表現し、介護者に伝える権利と義務」をもったとき、彼らは当事者となる。
⑫高齢者の「最期まで在宅で」という望みを実現するには、介護・看護・医療の多職種の提携と当事者を含むケアカンファランスが必要。それは不可能なことではない。
⑬高齢者がそれを望むなら自分自身の生活のQOL向上のために財産の放出を!
(子ども・孫への財産贈与の前に、まず自分の最期の質の向上が大事。高齢者は小金持ちの筈)
講義は、パワーポイントを使って「当事者主権」という新しい概念と、それがケアという行為とどう結び付くのかという少々難しい話から始まったが(さすが東大教授!)、最後は高齢おひとりさまの身の処し方にまで及ぶ、いわゆる上野ブシ満載の懇切で豊かな内容の講義であった。
それにしても「当事者主権」、何と力強く、心地よく胸に響く言葉であろう。人は皆、事に当たってその主体者として判断し、行動していく権利を持つ。そうありたい、そうあるべきである、という思いを改めて胸に刻んだのである。と、ここまではそれでよい。そうあって欲しい、そうあるべきだと、ゆるぎなくそう思う。
しかし、この当事者を私もその一人である高齢者(いわゆる年寄り)に当てはめてみた時、果たしてそれは、どこまで可能であろうかと、立ち止まる自分がいることに気づく。問題を高齢者の介護ということに限ってみると、介護者と被介護者の関係は、明らかに介護する側が強く、介護される側が弱いというアンバランスの上に成り立っている。痴ほう症を病んだ義母の介護経験を顧みても、明らかにそうであった。そして今や、介護される立場にある自分が、果たして「当事者主権」を主張して介護者と被介護者の相互関係を対等な関係に保てるかどうか、自信がない。介護が必要になる日まで後どれくらい残されているかわからないが、上野さんの「介護される側の心得10ケ条」を拳拳服膺し、なおかつ、介護する側の人たちに(のみならず社会全体に)この「当事者主権」という考え方を広めていく役割の一端を担いたい。 (向田貞子)
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