エッセイ

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京暮らしつれづれ 師走の街のあれこれ 中西豊子

2010.11.27 Sat

minamiza

南座のまねき

どことなくせわしない気のする師走ですが、京都の師走は顔見世と共にやってきます。11月の末になると南座に「まねき」が上がります。TVニュースでも毎年決まって写されますね。あの独特の勘亭流の文字で書かれた役者の名前が南座に高々とあがると、「ああ師走やなぁ、今年も残り少なに-‐」と思うから条件反射みたいなものですね。江戸時代から続いてきたというこの年末の興行は、本来、文字通り劇場が次の年に契約する役者の「顔見せ」だったそうです。今は東西の人気役者が揃うので歌舞伎フアンには見逃せない公演です。

余談ですが、今年は、市川海老蔵と坂東玉三郎の顔合わせが見られるので楽しみにしていましたが、ニュースで海老蔵さんが顔に大怪我をしたと聞きました。海老蔵さんは、最近特に精進を重ね歌舞伎十八番や大きな役にも次々挑戦し、素晴らしい成長ぶりをみせているので、フアンは勿論のこと、方々から大いに期待が掛かっている人です。朝まで飲んでいての災難だと聞くと、役者たるもの舞台に支障があるようなことは絶対に避けなくてはいけないのにと、残念な思いです。

suguki

すぐき

この寒い季節になると、欠かせないのが、京漬物の「すぐき」と「千枚漬け」です。すぐき大根は蕪の仲間です。塩ずけにしてから、天秤の重しで更に漬け、その後、室(むろ)にいれて乳酸発酵させるのです。だから少し酸っぱくて複雑な、独特の味がします。この味はすっかりはまる人と、食べられないという人に分かれるようです。12月の入ると今年のすぐきが出始めます。

上賀茂辺りに行けば、少し前までは、天秤で重しをしている樽が並んでいたり、樽を室から出す風景などを見かけたものですが、今はどうでしょうか。

千枚漬けは、かぶらを薄く切って漬けた少し甘みのある漬物で、こちらの方が全国的に人気があるようです。私はどちらかと言うとすぐきの食感が好きですが、千枚漬けも捨てがたい美味しさです。

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東寺の塔

日本で一番高いという五重塔のお蔭で、随分遠くからでも東寺の位置は判ります。もともと平安京造営の際に、都市計画で造られたという官営のお寺だったものを、弘法大師空海に下賜されたといいます。西寺もあったのだそうですが、そちらは廃れ、東寺は真言密教の根本道場として栄えて今日に至っています。あの国宝の五重塔は、徳川家光が再建したということですが、近くで見ると実に堂々とした素晴らしい塔です。

「おだいっさん」(大師さま)の愛称で親しまれるほど、人気者の弘法大師ですが、その命日に因んで21日には毎月市が立ちます。古着や古道具、骨董品、陶磁器から食料品まで、その場で食べられるたこ焼きやおでんの店、何でもありの面白い市です。普段の日、広い境内はほんとうに静かです。そのお寺の境内に、1300もの店が並ぶので壮観です。25日の天神さんの日と共に、植木市も人気があって、遠くから買いに来る人も多いようです。私も庭に植えようと、小さい南天の木を買って帰ったことがありましたが、立派に成長してくれましたよ。

師走も押し詰まった終弘法(しまいこうぼう)のときには、人で前へ歩けないほどごった返します。植木市でお正月用の葉牡丹や正月飾りを買う人、古着の山をひっくり返して目ぼしいものを探す人、掘り出し物を真剣に吟味する人、それぞれ値段の交渉を根気よくやっている、それをまた見物する人、人、人です。

おけら火

おけら火

歳の最後はやっぱり八坂神社のおけら参りで締めくくります。四条通をまっすぐ東へ行けば、其の突き当りにあるのが八坂神社です。鉄の灯篭におけらの木を燃やすから「おけら参り」というのだそうです。火縄(吉兆縄)に火を頂いて、それをゆっくり廻しながら家まで持って帰ります。その火でお雑煮を炊くと、それで1年間無病息災に過ごせるということです。私は不信心者だから信じるわけではありませんが、行事そのものは趣があって好きなのです。(写真 おけら火)

私が幼いころは,「おくどさん」と呼んでいる竈があり、薪でご飯を炊いていましたから、おけら参りの火を竈へ移して燃やすのに意味(?)があったのですが、今では都市ガスですから、おけら火をマッチへ移して、それでガスを点火するという何とも奇妙なことになります。これでは意味がないと、火縄に火を頂くのも随分前にやめてしまいました。実際、風習などというものは、気持ちの持ちようや、周りの状況でどうにでも変えられるわけですね。

火縄はやめたというものの、おけら参りに行って、1年間の気持ちにキリをつけておくのはいいのかもしれません。底冷えする京都の夜、それはそれは寒いので、八坂神社まで行くのも、冷え込みの強い日であれば昼間に行くなどそれなりに気をつけて、でも何事も続けるのが私には健康法かもしれません。

年が変わる頃、家にいてもどこからともなく除夜の鐘が聞こえてきます。京都の街にはお寺があちこちにあるので、遠く近く、高い音低い音、取り交ぜてごーん、こーん、ごおおんといろいろに響きます。とても優しくかすかに聞こえる鐘の音を聞きながら、お風呂に入って1年を終えます。

この京暮らしも、月毎に私の目で見た京の様子をお伝えしてまいりましたが、今回でおしまいです。お付き合い頂いた皆さまに心から感謝しつつ。

カテゴリー:京暮らしつれづれ

タグ:舞台 / 京都 / 中西豊子