2011.12.23 Fri
ショートカットヘアーのアナベルの横顔には不安や焦りもなく、「死」を背負っている少女には見えない。イーノックは両親を亡くし葬式ごっこを楽しむ少年。そしてヒロシはイーノックにしか見ることのできない日本兵の幽霊だ。この若い3人が織りなす物語は生きているのか死んでいるのかわからない世界なのに、はかなくどこまでも美しい。生と死とそして愛の物語。
アナベルとイーノックは他人の葬式で出会う。だんだんと仲良くなってきた2人は、お互いの欠けている部分を補うように寄り添い会話を重ねる。自然観察者で虫のストーカーのアナベルがその生態についてイーノックに話をすると、彼は少し気味悪そうにするが、両親の墓まで連れていき彼女を紹介する。2人は急速に深い絆に結ばれ、それは永遠に続くかのように思われる。
ヒロシの存在は映画の中で一番奇妙だ。死者であるヒロシが画面に突然現れたかと思うと、気づいたら消えている。それも何の違和感なく、彼は登場したり消えたりを繰り返す。このヒロシの存在がただの甘いラブストーリーにはない不思議な印象を鮮明に残し、映画に強いアクセントを与えている。
監督のガス・ヴァン・サントと言えば、『MILK』や『エレファント』など社会的マイノリティや心に闇を抱えた若者などの主人公に丁寧にカメラを向けて、心の中をゆっくりとそして激しく映してきた。本作もカメラは若すぎる彼らのさりげない顔や後ろ姿を見逃さない。特に何度も何度もイーノックとアナベルがキスを
するシーンは、胸が締め付けられる。こんなに美しいキスを見たことがない。二人のキスは甘酸っぱく、アナベルの死が近いことを一瞬だけ忘れさせてくれる。
死を抱える愛の物語は涙がつきものである。まさにそんなお話であるが、彼らは残された時間を生き、最後は死者を見送る。そして最後のヒロシが手紙を朗読する場面は、物語を重層的にしている。想いを伝えないことと想いを伝えること、どちらも愛の表現は様々であるが、ヒロシの手紙は心に妙に突き刺さるものであった。
生も死も愛もかたちにはできないが誰しもがそれを感じ表現しようとしている。生きることは死ぬことであり同時に愛することである。「死を恐れた?」とヒロシに聞いたアナベルに、イーノックが代わりに「少し怖い」と答える。3人の姿が美しいのは恐れていないからではなく、日々の生を正直に受け止めているからではないだろうか。
秋から冬に季節が移りゆくアメリカの景色は空気が澄みきっていて、死を少し予感させる。また彼らのまとう一見何気ない衣装は、複雑さを背負う登場人物たちに丁寧に意味付けしているかのようである。アナベルの60年代風の衣装もヒロシの特攻隊の制服も、その景色と彼らのためにつくられたかのようで、画面に鮮やかな色をつける。冬の次は春がやってきて生の季節は再びめぐってくる。
(日本大学芸術学部・映画学科・3年・伊津野朝子・いづのあさこ)
『永遠の僕たち』 公式HPはこちら
(ガス・ヴァン・サント監督/アメリカ/2011)
12月23日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネマライズほか全国順次ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
カテゴリー:新作映画評・エッセイ
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