2012.07.20 Fri
そんなハードな旅は私にはとてもむり。これは男友だちの一人旅。61歳の挑戦。高校の頃、青春18切符で回った北海道を、もう一度、自転車で走ろうと思い立った。イタリア製の自転車MASIに乗って。
MASIの車体は10㎏と軽く、車輪を外して持ち運びもできる。ロードレーサーなみのスピード感がウリ。1日5時間、時速20~45キロで約1カ月の旅程だ。
梅雨の蒸し暑さを避け、6月半ばに京都を出発。舞鶴から日本海フェリーに乗り、1泊2日で小樽に着く。船賃は12000円と安い。
「祇園祭の頃には帰れるかな」と出かけたけれど、帰りは未定。今頃、どこを走っているのやら。
小樽~札幌~富良野~十勝岳~帯広~釧路~標津~羅臼~知床岬~ウトロを回って、斜里~網走へ。北端の稚内から南の苫小牧へは下り一方だから、時間が短縮できるかなと思うけど、それは地形に無知な私の考え。そんなこと、あるわけがない。
今どきケータイも持たず、メールもしないアナログ人間から、忘れた頃に公衆電話がかかってくる。
「スピード出しすぎてコケんといてや」「誰がコケるかい」「高速道路を走れば速く着くのに」「地道を走ると決まってるやないか」と呆れられる。
昨年、アイルランドのアラン島に渡った彼は、人家も何もない荒れた平地をレンタルサイクルで走った。1日のうちに気候が激変する。晴天かと思うと一天にわかにかき曇り、どしゃぶりの雨にあう。そんなときは、ポツンと取り残された朽ちた石の古城に立ち寄って雨宿りをしたという。
そうそう、私が『資料・日本ウーマンリブ史』(松香堂書店)の編集をしていたとき、「男の子育てを考える会」のくだりで、漁夫が編む「アラン編み」のセーターの脚注をつけたことがある。あのときから、いつかアラン島に行ってみたいと思っていたが、まだその夢は果たせていない。
大雪山の奥座敷の湯治場「とむらうし」(これもアイヌの言葉かな?)に立ち寄ったら、地元のおばさんに「どこから来たの?」「京都からです」「のんびりできていいね。あずましい」といわれたとか。「あずましい」とは、「優雅で、心地いい」という意味らしい。もともとは津軽地方からきた北海道の方言だとか。
私の亡くなった父も戦前、九州の学校を卒業後、帯広の種畜場で勤務。その後、ニュージーランドの牧場へ。そういえば父は羊の毛を刈るのがうまかったな。そして終戦まで、中国の合弁会社で農業技術者として働いた。父も若い頃、北海道ののびやかな空気にふれて、海外に目を向けたくなったのかもしれないな。
ところで友人は腰痛もちなのだ。また腰をいためているのではないかと気になる。数年前、二人でイタリア・シシリー島のシラクーサに旅したとき、歩きながら何度も「みねさん、ちょっと待って」と立ち止まる。腰が痛かったらしい。「旅行の前に畑仕事に根をつめたんじゃないの?」「いや、行く前にちょっとスクワットをやりすぎたんだ」「アホとちがう? 森光子じゃあるまいし、そんなに鍛えんでもええのに」。
ささいなことで口げんかをしてしまい、旅の途中、体調を崩した人に、やさしくなれない私をかなしく思い、あとで反省して詫びた。
まあ、電話がかかってこないところをみると、今頃、調子よく走っているんだろう。
ああ、それにしても、この忙しい毎日から逃れて、私もどこかへ一人で旅に出たいなあ。
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