エッセイ

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あなたのその遺言書、実現してくれるのは誰?【大切なモノを守るには】

2013.05.03 Fri

1 遺言書で大切な「者」を守る【大切なモノを守るにはNo.1-8(8)】

このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。


◆テーマ・その1:遺言書で大切な「者」を守る

第8回 あなたのその遺言書、実現してくれるのは誰?

●遺言執行者には強い権限がある

さあ、「遺言書で大切な『者』を守る」というテーマでの連載もいよいよ最終回となりました。これまでの回で「法律婚夫婦+子」といった枠組みの中では生きていない私たちのようなマイノリティにとっては、大切な「者」「大切な自分の遺志」を守るには「遺言書」がなによりも大事な武器であり防具であることを述べてまいりました。

そして、実際にどのような遺言書を書けばいいのかについて、様々なケースを例に挙げてご紹介いたしました。

今回は、これまでのお話や遺言書の例の中で、名前だけは頻繁に出てきた「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」についてご説明いたします。

当たり前のことですが、遺言書に記載する内容は、あなたの死後に実行されることになります。どれだけあなたが自分の願いを込めてしっかりとした遺言書を遺したとしても、その遺言書の内容通りに実行されるかをあなた自身の目で確認することは残念ながらできません。
だからこそ、あなたの死後、あなたの代わりに、あなたの遺言書を実現してくれる人間が必要になります。それが「遺言執行者」です。
「遺言執行者」については、民法の第1006条以下に定められています。このあたりの条文は比較的わかりやすい書かれ方になっていますので、まずは実際に条文を見てみましょう。


民法 第1006条(遺言執行者の指定)
遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

民法 第1009条(遺言執行者の欠格事由)
未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

民法 第1012条(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

民法 第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。


いかがでしょうか? 読めばすぐに理解できる内容ではないかと思います。

第1006条で重要なのが「遺言で」という箇所です。遺言執行者の指定は「遺言書」でしかすることができません。

第1009条では、遺言執行者にはなれない人間を定めています。遺言執行者になれないのは、「未成年者」と「破産者」です。それ以外であれば、相続人のうちの誰かを指定しても構いませんし、相続人全員を指定することもできます。まったく遺産相続に関係のない第三者や法人等を指定することもできます。

第1012条と第1013条では、遺言執行者には強い権限があることが定められています。遺言執行者がいる場合には、例えばそれ以外の相続人が勝手に家や土地を売って遺産を処分してしまっても、それは無効になります。

このように、遺言執行者とは、法律に定められた強い権限を持って、あなたの遺言書の内容を実現してくれる、あなたの死後の代理人なのです。

●誰を遺言執行者にすればいいの?

遺言執行者はあなたの死後の代理人として、あなたの遺言書の内容を実現してくれる人ですから、まずは何よりもあなたが信頼できる人物・法人等に頼むことになります。

もしかすると、あなたが遺産を遺したいパートナーがいる場合、そのパートナー自身に遺言執行者という強い権限を与え、遺言書の内容を実現をしてもらうのが最適なのではないかと考えるかも知れません。

ですが、相続というものは、血を分けたきょうだい同士の間でさえも揉めることが多く、いまや「相続は“争族”だ」とさえいわれます。利害関係者の誰かを「遺言執行者」にしてしまうと、その争いがさらに悪化してしまうことにもなりかねません。

ましてや、事実婚(同性パートナーを含む)・非婚・おひとりさまといった場合の相続は、例え遺言書があったとしても、全てが穏やかに済むということのほうが稀でしょう。

相続のような当事者が誰もが冷静にはなれないものは、利害関係者ではない第三者に遺言執行者を依頼して、第三者に粛々と手続きを進めてもらうのが一番ではないかと考えられます。

上述の民法第1009条に定められているように、未成年者・破産者でなければ、遺言執行者には誰でもなることができます。信頼できる友人や知人がいる場合はその人に頼むこともできます。

ただし、遺言執行者の職務内容は、あなたの死後、遺言書の写しをつけて、遺言執行者に就任した旨を相続人・受遺者へ連絡することから始まり、以下の例のように大変な時間と労力が掛かるものとなります。

【遺言執行者の職務内容例】
・相続財産目録の作成
・貸金庫の開扉
・預貯金の名義変更
・株・証券等の名義変更
・不動産の相続手続き、名義変更
・遺産の引渡し
・遺産の売却
・遺言による認知の届出
・遺言による相続人廃除・取消の申立て など

友人や知人に遺言執行者を頼む場合は、それらをよく説明し理解してもらった上で引き受けてもらう必要があります。もちろん、本人に相談せず、いきなり遺言書で遺言執行者に指定しておくのはマナー以前の問題です。また、遺言執行者は、その職務を辞退することもできますので、事前相談もなく遺言書で遺言執行者に指定しておいても、普通は辞退されてしまうでしょう。

遺言執行者は、行政書士や司法書士、弁護士といった相続の専門家に依頼することもできます。遺言執行者の職務内容の大変さを考えると、友人や知人に頼むよりは、専門家に依頼するほうが現実的といえるでしょう。

●遺言執行者は必ず指定しなくてはいけないの?

遺言執行者の指定は、遺言書を作成する人の権利であって義務ではありませんので、遺言執行者を指定しなかったからといって、遺言書が無効になるようなことはありません。

また、遺言執行者がいないからといって相続手続きが開始できないというものでもありません。相続人で手続きを進めることはできます。

ただし、中には、遺言執行者を決めないと手続きできないものもあります。遺言書の中に「認知」や「推定相続人の廃除・取消」の内容があるときがこのケースです。「認知」・「推定相続人の廃除・取消」についてはここではご説明しませんが、これらの内容が遺言書に記載されているけれども遺言書に遺言執行者の指定がないときは、家庭裁判所に申し立てて、遺言執行者を選任してもらわなければいけません。

また、「認知」や「推定相続人の廃除・取消」がない遺言書であっても、遺言執行者がすでに亡くなってしまっている場合や辞退された場合、そもそも遺言執行者が指定されていない場合などにも、利害関係人が家庭裁判所に申し立てて、遺言執行者を選任してもらうこともできます。

●遺言執行者の指定の仕方は?

遺言執行者は、遺言書の中で指定します。どこの誰かなのかがわかるように、住所や氏名をしっかりと記載しておきましょう。

【記載例】
遺言執行者として、下記の者を指定する。遺言執行者は、本遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。

(事務所)◆◆県◆◆市◆◆町◆◆番地◆◆
(職業)行政書士
(氏名)□□□□
(生年月日)昭和X年X月XX日

●現行法の中でマイノリティの権利を守る!

「相続」に関しては、現行の民法は「法律婚夫婦+子」といった枠組みを基準として作られており、事実婚(同性パートナーを含む)・非婚・おひとりさまといったマイノリティは、どうしてもそこからはこぼれ落ちてしまいます。

ですが、同じ民法でも「遺言執行者」に関する部分は、こうしたマイノリティの強い味方ともいえます。あなたが遺言書に託した遺志を死後に誰にも邪魔させないように、「遺言執行者」はとても有効な手段であり、ぜひとも活用すべき制度です。

法改正には時間が掛かります。その一方で、私たちはどんどん年を取っていきます。だからこそ、現行法の中で、できる限りマイノリティの権利を守る。この連載では、そのための情報提供を今後も続けてまいります。

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【文】
 金田行政書士事務所
 行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
 http://www.gyosyo.info/
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タグ:相続 / 老後 / 金田忍 / 遺言