2014.02.12 Wed
新年早々シカゴで、カトリック聖職者による性的児童虐待が大スキャンダルに発展しました。
とはいえ、シカゴの事件は氷山の一角。2月5日には、国連の「子どもの権利委員会」が、ローマ法王庁(ヴァチカン)を非難したばかり。世界中で発覚したカトリック聖職者による性的児童虐待への対応を怠ったというのが理由です。
先月、シカゴの事件がメディアを騒がせたのは、訴訟の過程で弁護士により、教会の機密文書が公開されたからです。それは、6000枚にものぼる小児性愛者と告発された聖職者たちの詳細な記録でした。その中にはシカゴで容疑が立証されている60人以上のうち、30人について記載されているといいます。弁護士の会見とともに、数人の被害者の男性たちが会見し、涙ながらに子供の頃に受けた性的虐待を告発しました。彼らの多くは、現在40,50代。被害者の数は雪ダルマ式に膨れ上がっています。
この事件が性犯罪の枠を超えて、アメリカ中を震撼させたのは、“加害者の更正と救済”を建前に、教会の上層部が告発された聖職者たちを庇い続け、野放しにしてきたことです。加害者たちは所属教会を転々と移動するだけで、いつでも子どもを襲うことができました。被害者の多くは、貧しい家庭に育った子供たち。貧困層が集まる都会から離れた小さなコミュニティでは、教会の影響力は大きいのです。雇用の提供や経済的な支援など、苦しい生活を強いられている人々にとっては、“命綱”ともいえるでしょう。
こうした事情を熟知したうえで、加害者たちは児童の純粋さと両親への愛情を利用し、時には「お前の父親は仕事を失うぞ」と脅迫して、子供たちを口止めしていきました。
さて、ここで問いかけたいのは、シカゴの事件を“特殊な組織内での出来事”、“小児性愛者による犯行”と片付けていいのかということです。“男性の発育に伴う身体的変化”と、“独身主義と教会”という二大論点は無視できません。しかし、教会と児童というキーワードを外して追及すると、「組織とヒエラルキー」「セクシュアリティとパワー」など、女性への性暴力とハラスメントの原因が根底にあるように感じるのは、飛躍のし過ぎでしょうか。
日本では、女性への性暴力は“犯罪”であり体系的に論議されてきた一方、男性同士の性犯罪は週刊誌などを賑わすだけ。男性同士のパワーバランスを性暴力をとおして分析していくと、ジェンダーバイアスが浮かび上がってくるように思えるのです。なぜなら、男児への犯罪も含め、男性間の性犯罪に「被害者の外見が挑発的だった」「その場にいたのが不注意だ」「抵抗しなかったのは合意の上だ」など、女性の被害者に対する加害者の“都合のいい言い分”が通用しないものに映るのです。セカンド・レイプを起こす偏見は、性犯罪を正当化するための“巧妙な洗脳の賜物”だったことが見えてきます。
アメリカでは近年、学校のロッカールームで起きた男子生徒へのレイプ事件が報道されました。被害者は、スポーツクラブの上級生から“しごき”として性暴力を受けたのです。被害者の関係者たちは、「これは性犯罪だ」とメディアを通して訴えました。かつては正当化されてきたことが、もはや犯罪となり、タブーではなくなりつつあるようです。
女性と同様、性暴力はどの男性にとっても起こりうることです。男性の被害者の証言からは、「恐怖による身体的硬直」で抵抗不可能に陥ったことも明らかになっています。男性の被害者は、心身ともに “女々しい”というスティグマを貼られ、嘲笑の的になることを恐れるあまり、沈黙をしてしまう。追い詰められて、自殺するケースも少なくありません。
世界中を騒がせている教会のスキャンダルが、改めてジェンダーの問題に一石を投じたように感じています。女性への性暴力の対応をさらに発展させていくためにも、男性間の性暴力の実態を明らかにしていくことが必要なのではないでしょうか。
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