エッセイ

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<女たちの韓流・50>「笑って、トンヘ」~家族との再会をもとめて~ 山下英愛

2014.03.05 Wed

 イメージ 1先月下旬、北朝鮮で約3年ぶりに南北離散家族の再会行事が開かれた。朝鮮戦争で生き別れになった肉親との再会の会場は、いつも涙の海である。韓国ドラマに家族さがしや再会というテーマがしばしば登場するのは、こうした現代史の痛みと無関係ではないだろう。ドラマ「笑って、トンヘ」(全159話、KBS,2010~11年)も、いわゆる家族の再会物語である。

 だが、このドラマは韓国で“マクチャンドラマのようだ”と評された。マクチャンドラマとは、ストーリーの展開が不自然だったり、非常識だったりするドラマのことである。確かに、「笑って、トンヘ」にもそんな要素があることは否めない。私もテレビ画面に向かって文句を言いながら見ることも多かった。しかし、マクチャンになればなるほど視聴率は上がるもの。終盤には44.8%の最高視聴率を記録した。脚本を書いたムン・ウナは、「アジュンマが行く」(全162話、2006~07)「あなたは私の運命」(全178話、2008~09)など、KBSのホームドラマで高視聴率をたたき出した作家。「次回が見たくなるように面白く書く」ことをモットーにしているそうだ。

海外養子で未婚の母

 イメージ 2主人公は、韓国系米国人のアンナ(俳優:ト・ジウォン)と、その息子トンヘ(チ・チャンウク)。アンナ(韓国名トンベク)は幼い頃、親とはぐれ、海外養子として米国に送られた。7歳程度の知能をもつ知的障害者である。養父母に育てられたアンナは、大人になって韓国から来たジェームス(韓国名キム・ジュン)と恋に落ちた。だが、「必ず迎えにくる」と言い残して去ったジェームスは、戻ってこなかった。別れた後に妊娠したことがわかり、カール(韓国名トンヘ)を産んだ。それから20数年間、アンナはトンヘとともにジェームスを待ち続けた。ドラマは、アンナと成長したトンヘがジェームスをさがして韓国にやって来るところから始まる。

 トンヘはスピードスケート、ショートトラックの米国代表選手。試合で韓国に遠征することになり、その機会に家族さがしをしようとアンナを連れてやってきた。トンヘにはもう一つの目的があった。それは、恋人のセワにプロポーズすること。トンヘは留学生だったセワ(パク・チョンア)と将来を誓った仲。セワが帰国した後もトンヘの気持ちは変わらなかったが、セワからの連絡は次第に遠のいた。それでこの際、韓国に行ってプロポーズしようと思ったのである。

 イメージ 3一方のユン・セワは放送局の新人アナウンサー。母親のもとで苦労して育ち、人一倍出世欲が強い。頭がよく、美貌の持ち主でもある。貧しい中でやっと留学し、希望に燃えて一心不乱に勉強した。ホストファミリーのアンナとトンヘがそんなセワを熱心に励ましてくれた。だが、帰国後、難関のアナウンサー試験に合格したセワは、トンヘのことなどあっさり忘れて、カメリアホテルの社長の息子ドジン(イ・ジャンウ)と結婚しようとやっきになった。だから、トンヘから“韓国へ行く”との知らせを受けた時も、喜ぶどころか、友人のポンイ(オ・ジウン)に出迎えを頼んだのだった。

 こんなセワとは対照的に、ポンイは律儀で誠実な女性として描かれる。韓国で路頭に迷うアンナとトンヘを熱心に助け、面倒をみる。ポンイのみならず、その家族はみんな思いやりのある善良な庶民という設定だ。ポンイの父親はかつてキムチ工場を大きく営んでいた。ところが、そのキムチに異物が混入されているとの誤った報道のせいで、いっぺんに信頼が失われ倒産してしまった。それを報道した記者がキム・ジュンで、カメリアホテル社長ホン・ヘスク(チョン・エリ)の夫である。ポンイの家族にとっては仇のような存在。さらに、アンナが待ち続けたジェームスが、実はキム・ジュンであり、トンヘの実父という、やや入り組んだ設定である。

 イメージ 4放送局の報道局長であるキム・ジュンは、その昔、米国留学中にアンナと知り合い、親しくなった。アンナと結婚するつもりだったが、カメリアホテルの現社長ホン・ヘスク(写真)が自殺未遂までしてしがみつき、アンナのもとに戻ることができなった。結局彼はヘスクと結婚し、息子ドジン(写真)も生まれた。しかし、心の片隅ではアンナを思い続け、ヘスクとドジンを悲しませることになる。彼はアンナと再会して、いよいよヘスクのもとを去ろうとした。優柔不断な性格で煮え切らず、周りの人々に迷惑をかける男である。そもそも彼によって葛藤の多くがひき起こされたといえるだろう。

セワのキャラクター

 このドラマの中で、セワは利己的で欲深い人間として描かれている。セワは、アナウンサーになった後、家柄の違いによる障害を乗り越えてドジンとの結婚に成功した。そして、もう少しでホテル経営者の妻として社会的地位と富を握るところまでたどりつく。ところが、アンナとトンヘが目の前に現れたことによって、自分の行く手が阻まれそうになる。それでセワは、あらゆる手段を使ってアンナとトンヘを米国へ追い返そうとした。イメージ 5アンナとジェームス(写真)、アンナと実の父母(カメリアホテルの会長)を会わせまいと、いろんな妨害を企てるのだ。しかし、それらはすべて裏目に出て、結局、婚家を追い出されてしまう。自ら欲望を抱いたセワは落ちぶれて、愛に忠実だったポンイはシンデレラになる。ただ、私はどんな困難に出くわしてもあきらめないセワのしぶとさだけは気に入った。

 最後に登場人物たちがどのように和解するのかも見ものである。それぞれが深く傷つけ合って、到底和解などありえないと思うけれど、それをやってのけるのが韓国ドラマ。ただ、和解の方法にもジェンダーがあった。内容はドラマを見てご確認を。終盤、犯罪行為に及んだドジンがどうなるのか、また、一連のもめごとの原因を提供したジェームスがどうなるのかも、見ていて興味深かった。

リチャード・ヨンジェ・オニールのこと

 イメージ 6ところで、このトンヘとよく似た背景をもつ人がいる。それがリチャード・ヨンジェ・オニール(1978~)である。音楽好きの人なら知っている人も多いだろう。日本でも公演したことのある有名なヴィオラ奏者である。彼の母親(イ・ポクスン)は、朝鮮戦争の孤児で、しかも知的障害をもつ。戦争後の1957年に4歳で海外養子に送られ、アイルランド系の米国人夫婦に育てられた。ポクスンが未婚で産んだ子どもがリチャードで、彼もポクスンの養父母に育てられた。確証はないが、ドラマのモチーフがこの母子ではないかと私は思っている。

 リチャードはニューヨークのジュリアード音楽院で全額奨学生として学び、2007年からはUCLAでも教えている。彼が韓国に関心をもつようになったのは、ジュリアードで韓国人の教授に出会ってから。韓国を“母の国”として受け入れるようになったという。2000年代半ばにKBSやMBCが彼のドキュメンタリーを放送し、韓国で有名になった。私は昨年、韓国旅行中にたまたま見たテレビ番組で彼のことを知った。養祖父母への愛と感謝、母親に対する思いを涙ながらに語る姿を見て感動し、いっぺんにファンになった。

 イメージ 7その彼が、一昨年、忙しい演奏活動の傍らで、韓国の多文化家庭の子どもたちとともにオーケストラを結成した。韓国で差別や偏見にさらされて暮らす多文化家庭の子どもたちに、困難に負けないための拠り所をもってもらおうという趣旨らしい。この企画はMBCのドキュメンタリーとして放送されたが、昨年、映画にもなった(「アンニョン?! オーケストラ」)。これがまた感動的だ。日本の多文化社会の今後を考える上でもヒントになるだろう。末尾にリチャード・ヨンジェ・オニールに関するユーチューブの映像をリンクしておいた。そちらもぜひご覧いただきたい。

写真出典

http://sports.chosun.com/news/utype.htm?id=201104010100000610019783&ServiceDate=20110331

http://doctorcall.tistory.com/327

http://goso.tistory.com/267?viewbar

http://bal8068.tistory.com/m/post/view/id/292

http://www.hancinema.net/korean_Richard_Yongjae_O__Neill.php

関連映像

リチャード・ヨンジェ・オニールの演奏「島のこども」(韓国童謡)

https://www.youtube.com/watch?v=muJAlhLEtKI

韓国ソロデビュー10周年記念インタビュー

https://www.youtube.com/watch?v=64VMYl9qz1k

映画「アンニョン?! オーケストラ」2013予告編

https://www.youtube.com/watch?v=4BFfYXzhsqg

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 山下英愛